11 出来る事を 3




 「……え?」

 少女の謎に高らかとした発言にユーマは首をかしげるしかなかった。

 今彼女はなんと言った。


 女面鳥ハーピィ?郵便?王国同盟?書状?魔王?全てに疑問しか浮かばない。この目の前にいる少女ハーピィと後ろにいる屈強な男ハーピーは別物なのか。


 王国同盟とは何か、魔王なのは…しょうがないとして。何もわからず、思わず助けを求める様にラティエルを見る。


 そんなユーマにラティエルはやはり微笑んだまま答えるのだ。



 「お父様、お忘れですか?『この島の生き物は全て化け物の姿をしている』――そう他国から言われている、と。こちらの女性は紛れもなく女面鳥ハーピィと呼ばれる種族です」


 ああ、これには驚くしかなかった。ユーマは思わず息を呑みもう一度少女を見る。女の顔に鳥の身体。

 女面鳥。少女はそう呼ばれるのに相応しい姿をしている。


 考えてみればユーマの元の世界でハーピィと言えばこんな姿をしていると伝えられているではないか。

 長らく忘れていた。子供のころはこういう話が大好きでよく覚えていたのにと懐かしさがこみ上げる。


 なにせ、伝説上の生き物をこうもしっかりと見たのは初めてなのだから。行ってしまえば、やはり、


 ――『この島は異常』なのだと再確認した事にもなる。


 つまり、この姿の彼女こそ元のハーピィと呼ばれる存在なのだろう。後ろにいるごつい男が異常体なのだ。

 そして理解した。


 この世界では彼女たちハーピィは普通に受け入れられていて、飛脚として生活しているのだと。正真正銘、このヒヨコの様な少女は郵便局員なのだ。

 なんだかユーマは感動した。


 なにせこの島の見てくれは恐ろしい姿をした種族しか見ていなかったから、外ではこんなに愛らしい種族もいるのだと。なんか感動した。


 しかも飛脚とは。この島ではマジックアイテムを創ったが、ハーピィにはそんな仕事もできるのだと関心もした。今までは城の警備をする彼らと狩りにいそしむ彼らしか見ていなかった。



 「はぁ…父上、初の女面鳥ハーピィに感動するのは宜しいですが、そろそろ手紙の方をご覧になっては?」


 しみじみと感動していると後ろから呆れた声が一つ。

 振り向けば、テラスから入ってきたのであろうアズエルが険しい顔で此方を見ており、ユーマは我に返った。


 手の中を見れば手紙が一通。さきほど目の前の少女が手渡してくれたものだ。異世界にきて初の他人からの手紙となる。やっぱり感動した。

 ちゃんとこの島の外にも手紙とかあるんだなぁっと。



 ――いや、待てと思うのは直ぐ後。

 正確に言えば、我に返って事の重大さ、少女の重大な発言に気づいたともいえる。



 「王国同盟?各国王の書状?」


 嫌な予感がして手元の美しい模様の入った羊皮紙の便箋に視線を落とした。

 良く見れば便箋には見たことのない紋章が7つ。端には美しい筆者で何か書かれているのが分かる。


 「『9王国同盟代表、マリンデレス・アクアヴァトゥス』そう書かれています」


 読めずに目を細めていると、後ろからアズエルが答えた。

 ちらりと彼を目に映すと、アズエルは先ほどと変わらず少しだけ険しい表情をして何か考えているようであった。前を見るとラティエルだけは何時ものように微笑んでいた。

 ただ、彼女は静かに側にいたアグリーを含めた兵たちを見渡す。


 「皆さまご苦労様でした。また後でお呼びしますので今は警備に戻ってください」

 「は?は、はい」

 「ルルーシカ様、ディアーミカ様。貴女達はクリコット様――こちらの女面鳥ハーピィのお嬢さんにお茶とお菓子を。お客様ですので大切にもてなしてあげてください」

 「は、はい!?」

 「…はい…」


 ただ一人落ち着いた様子でテキパキと周りの者達に命令を出していき、最後におろおろとしている飛脚の少女クリコットにも微笑みを向けた。


 「少し時間をください。後程、我が父“バロン”が返事をお渡しいたします。貴女はそれを届けてください」

 「は、はいぃ!!それが私の仕事ですから!!」


 最後にもう一度ビシッとした敬礼をして、クリコットはメイド二人に連れられるまま部屋を出ていった。同時にアグリー達も続けて外へと出ていく。


 残ったのは三人、ユーマとラティエルとアズエルだけだ。


 三人の間には静寂が流れていた。ただ、三人が三人ともその視線の先はユーマの手の中にある。

 少しして、アズエルは静かにユーマに手を伸ばした。


 「私が読みましょう」

 「あ、ああ」


 ユーマはアズエルに書状を手渡す。

 アズエルは静かに封を解くと中に入っていた一枚の羊皮紙を取り出し、そしてニヤリとその美しい顔にどこか恐ろしい笑みを浮かべたのである。


 「なんて書いてあるんだい?」


 ユーマは恐る恐ると聞く。王国同盟とやらは何のことか分からない。しかしだ、その手紙が王様からの物だと言う事は理解している。

 それも、一人じゃない。7つの紋章が印されていたのだ。そう、少なくとも7国の王様から。直々に書状が送られてきたのだ。何が掛かれているか分かったのもじゃない。


 もしかしたら考えたくないが、リル・ディーユの一件で戦争を起こされるのではないかと、恐ろしい考えが頭をよぎるのだ。


 そんな不安げなユーマの傍でアズエルは、咳払いを一つ。

 そして高らかに内容を読み上げた。



 「世界を収める我が9王国


 緑溢れる国 国王 アラン・グリーンランスィア

 水溢れる国 女王 マリンデレス・アクアヴァトゥス

 岩溢れる国 国王 ロバート・ガンガロン

 光溢れる国 聖王 アマリア・クローリカシス

 火溢れる国 国王 バウギ・ファイルティウ

 歴溢れる国 皇帝 ユウリ・カグヤクラ

 獣溢れる国 国王 グロッテ・ビシューフトフ


 以上7王の名の元に、死溢れる国ヴァロンを魔国と認め

 バロンを魔王とし、死の王バロン陛下の配下として永遠の忠誠をここに誓う」



 ――嗚呼、それは。

 予想もしていない、しかし予想以上の恐ろしい結果であるのに間違いは無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る