08 変わった日常で天使は微笑む 2
アグリーは顔を険しくさせ二人を見据えていた。
ユーマも疑問に思う、ラティエルの考えは改めさせた。他に問題はあるのだろうかと。そんな主人にアグリーは溜息をつく。
「あの、ですね。ユーマさん。ラティエル様の相手の失敗を一緒に謝る。という考えは大変すばらしいと思いますが」
「うん」
「それだと、今後ご息女に更なる負担をかけるという事になるのですよ?」
「…うん?」
「今までも壊れた家具の修繕で毎日何十回とメイド達に呼び出されていたのに。その上、一緒に謝罪までなされるつもりですか?」
とんでもない正論ではないか。アグリーの一言に「黙っていたのに」とラティエルは少し困った表情を浮かべた。しかしラティエルは直ぐに笑みを湛える。
「大丈夫ですよ。それで皆様の為になるのであれば。そんな物、苦にもなりません」
「ダメです!!何を仰っているのですか!!だから、もう少し主としての自覚を持ってくださいと言っているのではありませんか!これに関してはご家族の中ではアズエル様が一番まともだと思いますよ!」
しかし、アグリーは1ミリたりとも譲らない。
やはり彼女は真面目である。ただ、アグリーはそこで何かに気づいたように小さく「あ」と声を漏らし、あたふたと慌てふためきだした。
「あ、す、すみません!つ、ついっ。わ、私も兵として、まだちゃんと働いてないというのに!主人に大口をたたいて!」
「いいよ、アグリー。君の言ってることは正しいから……」
どうやら言い過ぎたと思ったらしい。しかし、先ほどの言葉、真面目な。真面目過ぎる彼女だからこその言葉であるのだが、それにとユーマは思う。「やはり正論だ」と。
確かにラティエルの考えだと彼女の負担が増えるばかりだ。それにユーマ自身もメイド達の扱いに関しては甘い方だとも思っているし、正直もう少しアズエルの非道差を学ぶべきだとも思っている。
だが、しかし。
「あの子たち、どれだけ教えても覚えてくれないんだよなぁ」
メイド達の異常なまでの掃除下手は最早治るとも思わない。
しかし、張り紙一枚で働きに来てくれた彼女達をクビにもしたくない。
さて、どうしたものか。
「……まぁ、
そんなユーマの悩みを読み取るようにラティエルは小さく呟いた。ユーマからは思わず「そうなの?」と声が漏れる。ラティエルは小さく頷く。ラティエルは特にメイド達と仲良く過ごしている、お茶をしているのも良く見る。その時、個別に話を聞いたようだ。
「彼女たちは掃除が苦手なだけで得意なことは其々持っていますよ」
確かにそれはユーマも気づいている。メイド達は掃除は壊滅的だが、その他の仕事は中々の腕だ。
例えばルビー。彼女は聞き上手で料理も上手く、紅茶や珈琲を入れさせると天下一品。
ルルーシカは。もちろん掃除は出来なくて、料理もトースト一枚焼き上げる事すら出来なくて、お茶も入れられない、変な言葉遣いは治らない。ラティエルの良き話し相手になっているぐらいだ。
…る、ルルーシカは…………。
「ルルーシカ様はご実家が農家です。植物を育てる。特に花等の世話は見事としか言えませんし、その知識を利用しての仕事の腕も中々です」
ユーマの表情を察してかラティエルは苦笑いを浮かべてフォローを入れた。「ただし」と最後に付け加えて。
「ルビー様もルルーシカ様も……メイドの皆様、家族から絶望されるほどに掃除だけは下手だと申していましたね。」
身体が硬直するのが分かる。
冗談だと言ってほしくてラティエルを見るが、彼女の表情が語る。「嘘はついていないと。」
これは頭を抱えるしかない。
まさか家族に絶望されているとは思ってもいなかった。
もう正直、掃除だけは三人で暮らしていた時と同じく家族だけで終わらせた方がよいのではないか、やはりもっとちゃんと面接するべきであった。
そんなユーマを前にし、ラティエルは微笑む。
「ですのでお父様。これは一つの提案として聞いてくださいね」
「はぁ………」
「ここは家事、掃除が得意な方々を入れるのはいかがですか?」
「え?」
メイド達に気を取られ過ぎていたためか、思わぬラティエルの提案にユーマは間抜けな声を漏らした。
掃除が得意な方々を入れる?
それは新しく人材を雇うという事だろうか。
「…ああ、
隣で妙に納得したようにアグリーも頷く。
ユーマは自身の記憶を探る。
しかし、問題がある。
彼ら小鬼の見かけが恐ろしいのは別に良い。もう慣れた上、街の住人は皆、気が良い者達ばかりだ。問題はそこじゃない。
正直に言おう、実はユーマ。
何故だか分からない。しかし彼らの話す言葉はユーマからすれば未知でしかない。それこそ知らないが外国に来たように。
ここで記しておくが、実はユーマの世界と
もっと詳しく言えば文字の読み書きは“記憶”から、言葉に関してはラティエルが翻訳の魔法を掛けてくれたらしい。
今、アグリーと話をしている時点でラティエルの翻訳魔法はしっかり作用しているわけで。
だから、
つまり、
……
ラティエルは言う。訛りが強いのだと。あれは訛りなんてモノじゃない。
それにまだ問題が二つある。
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