07 変わった日常で悪魔が笑う 3
「は?ルルーシカ?」
アズエルはルルーシカの名前が出てくるとは思っていなかったのか、首をかしげた。アイスブルーの目がルルーシカを映す。
どうやら身に覚えがないらしい。
「………ルルーシカが何か?」
「君、ルルーシカに結婚詐欺を仕掛けたらしいじゃないか」
ユーマの一言に、アズエルは一瞬驚き、何か思い出すように上を見る。少し眉をしかめ、悩まし気に下を見て。美しい笑顔を向けた。
「していません。ついに頭がおかしくなりましたか?」
やはり、どれだけ思い出しても身に覚えがないものはないらしい。
しかし、それで納得できないのはルルーシカである。
「嘘でございまする!!嘘でございまする!!」
地団駄を踏んだかと思えば涙や鼻水を垂れ流しで彼女はアズエルに飛びついていった。鮮やかに交わされたが。
「おかしいでする!おかしいでする!!」
交わされた先で再びルルーシカが地団駄を踏む。
そんなルルーシカをアズエルは面倒くさそうに視線を向けていた。その視線が語る 「おかしいのはお前の口調だ」と。
ユーマは幾度目かのため息をついた。
「昨日の午後、お茶会だよ」
「お茶会?…ああ。」
ユーマのヒントでようやく思い出したらしい。胸の前でぽんと両手を叩き、アズエルは改めてルルーシカに身体を向けた。まさか、本当に詐欺を働いたと言うのか。
「ルルーシカ。昨日のティータイムの時の事ですね?」
「そうれす!やっぱり覚えてたんですね!!」
ルルーシカが大きく何度もうなずきながら、アズエルに指差す。
そんなルルーシカの言葉を遮るようにアズエルは目を細めた。
「『ああ、今日もあなたは可愛らしいですね』」
「ふぇ?」
突然の言葉にルルーシカは素っ頓狂な声を漏らした。アズエルは気にせず続ける。
「『そんな愛らしい貴女に頼みがあります。お茶のお代わりを持ってきてはくれませんか?茶葉は貴女にお任せしますね?』」
「あ、それ、昨日の…」
「『ああ、でも慌ててはいけませんよ?貴女はそそっかし過ぎて心配になります。そういうところも愛らしくてずっと見ていたくも思いますが』」
「これ!これですよ!バロン様!!」
どうやら、コレは昨日ルルーシカに向けた「結婚詐欺」に使った言葉らしい。確かに甘い囁き…とも言えるだろう。しかし、これのどこが結婚詐欺なのだろうか。ユーマが疑問に思う中。
騒ぎ立てるルルーシカにアズエルは最後の言葉をつづけた。
「『もっと、落ち着いて行動してください。私の妹みたいに。』――以上です」
「………ふぇ?」
ルルーシカは再び素っ頓狂な声を発し。
そんなルルーシカにアズエルは心底不機嫌そうな表情を浮かべた。
「これのどこが結婚詐欺ですか?いつ結婚しようと言いました?どうやってプロポーズとして取ったんですか?それを貴女はいきなりペンダントを私に押し付けて走り去って行ったのでしょう」
「ええ?」
「しかも、ペンダントはラティエルに言われて仕方がなく謝罪の文とお詫びの菓子と主に共に貴女の部屋に返しておきました。『勘違いをさせてしまったのならすみません』と」
「えっと、その…」
「そして何よりも、私はその事を指輪を通じ何度も知らせようとしましたが、貴女は反応しませんでしたね?」
ルルーシカの表情が青くなる。反対にアズエルは今までより一層冷たく不機嫌な表情を浮かべる。
「指輪を無くしたようですね?銅貨三枚、給料から引かせていただきます。次、無くしたら六枚ですよ」
ルルーシカは声にならない声を発した。
助けを求めるようにユーマを見るが、残念ながら庇う手段がない。
ルルーシカの様子からアズエルの発言は正しいものなのだろう。そもそもラティエルがその場にいたのなら彼女が証言してくれるはずだ。ペンダントがルルーシカの部屋から出てくれば決定的。
そして指輪も事実。
ユーマもルビーも目をそらすしかない。
ただ、正直ルルーシカには悪いがユーマは思っていた。
結婚詐欺じゃなくて良かった…と。
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