04 バロンの魔法 4
緑あふれていた草原は一瞬の間にすべて砂に変わり、美しい白い城は音を立てて消え。あちらこちらに見えていた生き物の影は崩れ落ちていく
それは、驚く暇もない程あまりにあっという間の出来事。
「――は、へ?」
間の抜けた声が漏れる。夢か幻か、悠真は目を擦り再び確認する。
しかし、やはりそこには何も無い。青々とした草原も、畑も、馬の蹄の形をした大きな森も、何も無い。
ただ、砂が何処までも広がる乾荒原。
ただ、何一つとして無くなったその中で、不自然に妙にキラキラと輝く何かが見える。そこは森があった場所だ。この国で一番豊かだと言われていた森があった場所だ。アズエルは何も言わず、大きく羽ばたかせ、その何かに向かい始めた。
向かう途中、砂の上に倒れ込む数多くの人だったものを見た。
それらは、もう人の姿はしていない。その殆どが、骨と化し。まるで置物のように点々と並んでいる。中には、まだ辛うじて原型を残しているモノや、中途半端に肉片が残るモノ達もいた。
だが、その中に生きているモノは一つとしていない。
愕然としていると、光り輝く何かが真下に来た。
羽音と共にアズエルは地へと降り立つ。砂煙とともに、悠真は初めてその地に足をつける事となった。
そこには地面に倒れ込む赤毛の女がいた。女だけではない。男たちが数人。彼らのその姿はまだ人の外見を保っているが、やはり皆ピクリとも動かない。
その少し離れた場所には大きな袋が数個。アズエルの目的はこの袋らしい、彼女達には目もくれず袋の側へと歩み寄る。沢山の金銀財宝が詰め込まれた袋を確認し、アズエルはどこか不満げな笑みを浮かべた。
『‴つまらないなぁ。呆気なさすぎです‴』
心底つまらなさそうなアズエルを前に悠真は理解できないでいた。
いや、理解が追い付く筈がない。理解もしたくない。
たった今、悠真はただ杖一振で国ひとつを、まるで豊かな国が幻であったかのように、あまりに呆気なく、あっさりと、その全てを砂漠へと変えたのだから…
悠真は改めて辺りを見た。正確には側に倒れている女を。
女は目を目一杯、見開き事切れていた。口鼻から飛び出した何かが砂を赤く染め上げ、眼球はカラカラに干からび、細い腕の皮膚や肉は溶けるように砂と化し、骨が露出している。
女だけじゃない、その側にいる男達も同様だ。嫌、彼女はまだマシな方だろう。中には背中の表面だけが砂化となり"中身"が露わになっている者達のだから。本当に、何とか人としての原型を保っているだけだ。
あまりに現実味のない光景。
それでも少しずつ頭は理解していく。
身体の震えが襲い身体を両手で包み込む。強烈な頭痛と強烈な吐き気が襲い、手で口を押さえる。
それでも、その身体の異状は一瞬にして消えた。
「素晴らしいです。お父様!こんなにもたくさんの人を幸福に導けるなんて!」
あまりにも恐ろしい光景の中、その愛らしい歓喜する声はあまりにも場違いに響いたから。
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