10 初めての仕事


 ヴァロンには街以外にも集落が幾つか存在している。

 種族によってそれぞれ集まり自身たちの得意なことを駆使し生計を立て暮らしているという。


 例えばパン作りを得意とし人一倍こだわりを持つ黒妖精エルフなら小麦栽培、泳ぎが得意な蛇人間リザードマンなら漁業、人面鳥ハーピ―という種族は狩りを得意としているので猟師として、毎日街に物資を売りに来ている。


 そして、化け物島で唯一整った容姿を持ち農業を得意とする精霊ニンフ達は一族総出での農場経営。

 正確には大きな野菜畑とミルクの取れる山羊、卵を収穫するための鶏を飼育している牧場。そして、季節によって実りが異なる果樹園。それらは街から南に数キロ離れた場所にそれらは並ぶように存在していた。


 ただ、一族総出と言っても数の少ない種族だ。人手が足りない為、常に黒小鬼ゴブリン達を雇ってなんとか経営しているのだが、それでも人手が足りない時期があった。果物が多く実る、現代で言うといわゆる実りの秋と言う時期である。


 この豊かな島では季節と言うものは余り存在しておらず、だいたい常に春の陽気であるのだが、すこし肌寒い一般的に“秋”と呼ばれる時期になると毎年必ず沢山の果物が実る。

 果物だけでない。沢山の野菜も同時期に収穫を迎え家畜の世話まで重なり、その上野菜や果物を狙ったモンスターや野生動物達が荒らしに来るので大変だ。忙しい処じゃない。


 そんな忙しい時期だからこそ普段より沢山働き手を雇いたいのだが、同時期に黒妖精エルフ達の小麦の収穫時までもが重なるのだ。忙しくなればエルフたちも同じように働き手となる小鬼達を雇う。精霊ニンフ達よりも少々高い給金で。

 そうなれば精霊ニンフ達がどんなに募集を掛けても人手は集まらない。


 だからこそ毎年、この時期は街に出稼ぎに出た精霊ニンフ達も農場に戻り、猫の手も借りたい状況で作業に当たるのだ。


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