女性
今日もステーション・バーで一杯。相変わらず色々な人が駅にはやってくる。ある女性に目が引かれた。白いワンピースに白い帽子を被り誰かを待っているようだった。
今日はこの女性を肴に一杯と考えた。どのような物語が展開されるのだろう。胸の高まりを感じながら見守っていたが彼女の待ち人は来なかった。
翌日も彼女は待っていた。捜し人はどんな人なのだろうか。恋人かな、兄妹かもな、はたまた両親か。過ぎ行く人達を入念に観察している彼女に私は引かれていった。
明くる日も彼女はいた。そして、彼女は私に話し掛けてきた。
「あなたはいつもこの駅にいますね。」
「ええ、この駅で人間観察をするのが趣味なんです。」
私は恥ずかしかったが素直に答えた。
「実はある人を捜しているのですが、少しお話に付き合って貰えますか?」
良いですよ、と私が答えると彼女は話始めた。
彼女は故郷では幽閉に近い扱いを受けていたらしい。時たま、監視の目をすり抜けては村を散歩するのが唯一の楽しみだと語った。
そんな生活の中で彼に出会ったらしい。彼との出会いは散歩の最中だった。白いワンピースに白い帽子の服装で村の道を歩いていた時、縁側で外を眺めていた彼と目があった。
彼女は一目で彼に引かれた。彼に会うために夜中にまた彼の家の前に出向いたが、彼は二階の部屋に閉じ込められていた。
彼女は彼の気を引こうとあらゆる手段を用いたが一向に出てこない。諦めて一旦帰り、翌朝も見に来た。そこで目をしたのは彼が車に乗せられて連れ出される場面だった。
彼女は走り出した。追いかけるも流石に車には追い付けない。そして車は村の境界を過ぎ去り彼女も諦めた。
彼女が機に掛けた人々はみなそのような経緯を辿るのだ、と語った。そして、村の幽閉が弱まったのを切っ掛けに彼を追いかけてきたらしい。
これはヤバい話だ。聞いていると背筋が凍った気がした。
「申し訳ありませんが、それだけの情報だと彼がどのような姿をしているのかわかりません。」
そう無難に答えてこの場を立ち去ろうとした。
「あれ、可笑しいですね。私と同じような存在かと思っていたのですが。わからない、というのならば違うのでしょう。」
彼女はそう呟くと何処かへ消え去っていった。
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