第86話 『大将の正体』 その19
『兄様は、いささか、むちゃくちゃを言っているように聞こえますが。』
まりこ先生が、そう口を挟んだのです。
『歴史というものは、確実な資料により語らなくてはなりません。その話しには、あまり説得力が感じられない。まあ、多少はおもしろいけど。』
すると、やっと、怪人が答えたのです。
『さすがは、まりこ先生ですな。まあ、しかし、あなたが言う事も(兄様を指さしながら)、むちゃくちゃではあるが、よい点をついてもいる。若いのに、なかなか、想像力がある。当たっていることも、無くはないだろう。優秀だ。いかがかな、初代理事長の後継者にならないかな?』
『なんと?』
初代理事長と、現理事長が黙っていられなくなりました。
『どう言うことか?』
ふたりは、同時にそう、言いました。
『いま、新しい時代が始まろうとしているというわけですな。あなたがたは、いささか古くなった。』
初代理事長が、猛烈に怒りましたのです。
『あなたは、やはり、そのような理不尽な方だったのか。』
『理不尽ではない。実に理にかなったことである。』
『わたしは、間違っていたようだ。では、わが後継者には、まりこ先生を指名する。』
初代理事長が、そのように、さらに叫んだのです。
『はははははははっは。まりこ先生も、わたしがもらいうける。わが妻としよう。』
それはもう、まりこ先生は、あきれるやら、腹が立つやらでしたが、しかし、冷静にこのように言いました。
『あんたたち。おばかさんですね。どちらも、すべて却下。』
次期理事長を狙っていた教頭先生は、ほっとしました。
校長先生は、この先、すでによその学校に内定しています。
『よかろう。では、まりこ先生、わたしと一騎打ちしなさい。あなたが勝ったら、わたしは、再び500年の眠りに付き、この混沌は解消させよう。しかし、あなたが負けたら、あなたがた旧人類は、滅亡させることにする。ただし、おふたりは、わが新しい王国に参加することになる。おふたりが推薦するものも、加えて差し上げよう。わが友たちは、もちろん、それなりの地位に就くことになるし、あなたがた国民は、末永く繁栄するだろう。』
『それなり、とは何か?』
初代理事長が叫びました。
『それなりとは、それなりである。いいかな、わが友よ、あなたは、決定的な弱点をわたしに握られていることは、わかっているだろう?』
『そのようなことをするなら、あなたの塚は爆破する。その準備はすでにしてある。ははははははははあ。』
『ははははははっはははは。やってみるが良い。無駄なことだ。』
新山悟がまりこ先生にささやきました。
『これは、どういうことでしょうか。さっぱり取組内容がわからないのですが。』
『まあ、簡単に要約すれば、みつどもえ、ということですね。』
『むむむ。おぞましい。』
新山悟は、絶句したのです。
まりこ先生が、怪人に向かって言いました。
『わたしに、人類すべてを背負えと?』
『そのとおり。じつに判り易いではないか。』
『ほんとうに、わたしがあなたに勝ったら、このおばかなすべてを、もとに戻す? あるべき自然な姿に?』
『よかろう。』
『そのような、身勝手なことは許されない。歴史は戻せない。』
初代理事長が言い放ったのです。
怪人は、しかし、それを無視したのです。
『では、新しい舞台を用意しよう。皆さんから見ることはできるが、一切の干渉はできない聖なる闘いの場である。見るが良い。』
その、本館前広場には、異次元の空間が、ぬわりと浮かび上がったのです。
『まりこ先生と、自分のみが、この舞台に入るのだ。』
怪人が、ワーグナーさまの楽劇に登場する、大神ヴォータンさまのように宣言しました。
『くそ。そうはゆかん。』
初代理事長は、ついに、持っていた起爆装置のスイッチを入れました。
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