第84話 『大将の正体』 その17


 『人類を滅ぼす?』


 まりこ先生は、兄様を差し置いて、その体を手で制しながら、あきれたように、言い放ったのです。


 『きみ、ぼくが、話す番なんだから。』


 兄様は、あきれて言いました。


 『いつも、そうなんだ。』


 『兄さんは、人が良いから いまや、もはや、話している場合ではありません。』


 『そんなことはない。つまり、あそこに書いていることは、ヴォイニッチ手稿と同じなんだ。』


 『なんと。それは、爆弾発言よ。あれは、誰も読めていないんだから。』


 『読めたとは言っていない。しかし、全体の確率の問題として見た場合、あらゆる点で、同じ構造になっている。つまり、同じことが書かれている可能性が高い。同じ人物か、あるいは、その内容を、詳細まで知り抜いた人が、書いたのだろう。しかも、その内容は、ないよう。』


 『わわ、ずっこけないでください。』


 『内容があるならば、もっと内容が分かるように書くだろう。でないと、あまりに非効率だからね。あんなこと、あんなに大量に、無意味にやるのか? あそこまでする意味がどこにあるか? 相手をだますためだ。しかも、その目的は、呆れるほど、あほらしく、巨大なもの。例えば、人類を抹殺するとかね。』

 

 怪人は、大笑いした。


 『は、は、は、は、は、は、は。 愚かな。』


 『図星でしょう。』


 『あほらしい。なぜ、ヴォイニッチ手稿などという、異国のものが出てくるのか?』


 『ここにいる怪物さんたちの姿が、あの中に書かれている怪物さんとそっくりだから。たとえば、あなた。』


 兄様は、集まっている、怪物化した、ある人を指差しました。


 『あなたは、フォリオ71v-4の中央にいるえびささんに、そっくりだ。さらに、あなた!』


 反対側の、ある怪物さんから順番に、兄様は指し示したのです。


 『あなたは、73r。あなたは、85-vの太陽に。あなたは、86v-1の奇っ怪な怪物に、さらに、あなたは、89v-2の藍色の物体に。また、あなたの下半身は、101v-2の植物らしき物体に。また、女性の皆様は、たくさんの描かれた女性のどれかに、まあ、区別は付かないが、そっくりだ。かように、あなたがたは、みな、あのテキストにより、怪物化している。ただし、こちらのテキストには、絵がないが。めんどくさかったのか? すぐに、見抜かれるからかな。』


 『ばかばかしい。そのようなことに、なんの意味がある? もし、そうであったとしても、私が書いた証拠はない。』


 『まあ、そうだ。しかし、冒頭、1rにある、鳥みたいなマークが、この本の最後にあるマークとそっくりだ。また、同じマークが、あのあなたの蔵にあったな。まあ、たぶん、うっかり書いて、隠し忘れたのだろうな。もちろん、証拠ではないが、状況証拠だな。こちらは、あなたが書いたのだろう? あなたが、作ったと推定はできるし、だいたい、さっか、あなたは、内容はデタラメだと言った。』



         ヘ(ё)ヘ


 


 


 


 

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