第50話 『学園大戦』 その27


 まりこ先生の兄様と、新山悟は、大学の敷地内に潜入し、例の怪しい建物に向かっておりました。


 幸い、めんどくさい事態には遭遇せずに、10分もたたないうちに、現場に到着できたのです。


 しかし、問題はこれからです。


 ラーメンやの大将から聴いた事柄だけでも、なかなか分かりにくい上に、何が出てくるか分からない、たいへんに、不気味な雰囲気がある場所なのです。


 そこは、大学内の小さな森の一角にあります。


 昼間なら、森とは言っても、明るい日差しも届くくらいのものなのですが、夜は明らかに異質な場所なのです。


 だいたい、照明がないのです。


 これは、建物の管理から言えば、明らかに

まずいのですが、何事にも抜かりのない、兄様の勤める大学にしては、手抜きか、もしくは、故意なのか、放置してるのか、ちょっと、わかりません。


 『兄さん、真っ暗闇だ。』


 『事を成すにはよい暗さだよ。強力LED懐中電灯が2つある。はい、これ。まずは、イミテーションの鍵を外す。てのは、どれかな。』


 まりこ先生の兄様は、その、蔵のような建物の周囲を照らしました。


 しかし、その、イミテーションの鍵、というものが何なのかが、まず分からない。


 『イメージとしては、かんぬきが掛かっていて、鍵が止めてある。みたいだよな。兄さん。』


 『うん。いやあ、そういうのを、なんだか、見たような気はしたんだがなあ。ないなあ? なんだったかなあ。あまり、気にしたことなんか、なかったからなあ。』


 二人は、反対回りに、ゆっくりと、上から下まで見回しながら、その鍵、というものを探しました。


 鍵どころか、取っ手もみあたりません。


 『最初から、話が違うなあ。』


 新山悟がこぼしました。


 『あ、そうだ。天井にあるのかも、』


 新山悟が、ひらめいた、とばかりに、言いました。


 『ふうん。さて、なんだろう。』


 まりこ先生の兄様は、それは、あまり、相手にしませんで、ひたすら自分の中を追及しているようでした。



 『じゃ、登ってみようか。』


 しびれを切らした、新山悟が言いました。


 『えっ? 登るって、きみ。どこから? この壁は、つるつるだろ。』


 『おいらは、崖登り部のメンバーだぜ。』


 『崖上り部?』


 『そう、なんでも、登るんだよ。』


 『あ、そう。そらま、いいけど、怪我しないでね。』


 新山悟は、ロッククライミングが得意と言えば、まあ、そうです。


 そこで、登れそうな場所を探しました。


 一方で、まりこ先生の兄様は、反対に、地面の辺りを探っておりました。


 そうして、勝ち誇ったように言ったのです。


 『こいつだよ。これ。』


 新山悟は、なかなか、とっかかりがなく、苦労しています。


 『なんでしか?』


 『ほれ、これだ。この建物のぎりぎり四隅に、ポールが立ち上がる、その、蓋がある。土を被せて、全体を隠してるんだ。姑息な。中に、ポールが入ってるんだよ。ふだんは、隠してるんだ。引き上げてみよう。ほれ、壁を上がるのやめて、来て手伝いたまえ。』


 新山悟は、しぶしぶ、壁から離れた。



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