第42話 『学園大戦』 その19


 『うんじゃあまいやら、うんじゃあまいやら………』


 怪しき祈りの声は、古い本館のホールから、その本館の下側の広場に、敷き詰められた石みたいに埋まった、怪物化した人々によって、限りなく繰り返されたのです。


 いや、それだけではありません。


 いまや、学校の正門を越えて、祈りの言葉は、学園都市全体に広がっていたのです。


 ただし、隣の、大学の敷地内は、例外みたいで、そこには、誰もいないのでした。


 いつもの、静かな夜のキャンパスです。




 ラーメンやの大将は、あらゆる周囲を、一切気にしないのです。


 この、大量の怪物さんたちに対して、このラーメンはあまりに少ないのでは?



 ホールの中に現れつつあった『それ』は、実にゆっくりと、実体化したのです。


 『うんじゃあまいやら、うんじゃあまいやら……』


 の大合唱のなかに、


 『偉大なる我らが理事長さま、おいでんさい。』


 というフレーズが、次々と、乗ってゆくのです。


 それに伴い、偉大なる理事長さまは、いまこそ、その姿を現したのです。


 それは、まししく、あの名高い、『遮光器土器』みたいな姿だったのです。


 しかも、たいへんに、リアルに。


 まりこ先生が見ていたら、ずっこけていたに違いありません。


 いや、まりこ先生は、見ていたのです。


 いやでも、見えたのです。


 学園中、学園都市中の、あらゆる、ディスプレイというディスプレイに、それは、強制的に中継されていたからです。


 宇宙人が攻めてくるときの、常套手段なのですから。


 『ぶっ。なに、あれ?』


 『なにって、あれは、いわゆる、遮光器土器、みたいだよな。』


 まりこ先生の兄様が、ちょっと、不意をつかれたみたいに、語るように、言いました。


 『あははははははは。』


 まりこ先生は、やっぱり、ずっこけました。


 『きみね、笑っていい時かい?』


 『だって、まさに、魑魅魍魎の中に現れた、唯一のきちんとした既知の姿よ。却って、コケティッシュだわ。あきらかに、何かを間違えている。』


 にも拘らず、その、きらびやかな姿は、確かに、戦士の風格だったのです。


 『偉大なる初代理事長さま。ようこそ。』


 現理事長さんらしきが、両手を広げて叫びました。


 彼は、頭に、遮光器土器の頭風な被り物を身に付けております。


 その下には、茶色っぽいマントを身に纏い、大きな刀を腰にぶら下げておりました。


 マントは、遮光器土器の模様にそっくりです。


 『ついに、マイヤラの境地がもたらせられる。その時が来たのです。あなたこそ、世界の統一者なり。うんじゃあまいやらあ。』


 『うんじゃあまいやら、うんじゃあまいやら。』


 集まった人々は、盛大に応じました。


 『なんだ、こりゃ。まさしく、大規模カルトみたいね。』


 まりこ先生が、さらに、呆れたのでした。



 ・・・・・・・・・・・・・・



 ラーメンやの大将さんは、ラーメンを作り終わると、さっさと、その場を離れました。


 誰も、咎めはしません。


 みな、怪しい儀式に夢中なのです。


 大将は、しかし、すぐに、店に帰ろうとはしません。


 ラーメンの材料は、まだ、残してあります。


 自転車を、きこきこと漕ぎながら、大将さんは、まりこ先生たちがいる校舎に向かったのです。



    

       🍜🍥

 


 

 


 


 


 


 


 


 


 

 

 


 


 

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