第31話 『学園大戦』 その8


 『おわあああ。お兄様、破ったぜ。』


 新山悟が口をあんぐりと開けました。


 『うむ、思った通りだ。見よ! これを。』


 勝ち誇ったエクソシストさんみたいに、お兄さんは、その分厚い怪しげな書物を高く持ち上げてから、まりこ先生に見せたのです。


 『あらま。これは、破ったのではないですね。』


 『そうさ、もともと、外れるようになってるんだ。まあ、今で言う、バインダーみたいなもんだ。一定以上の力で一気に引っ張ると、外れる。みな貴重な本だと思って、大切にするから、そんなことしないだろ。これは、おそらく、普通の紙ではないと思うぞ。』


 『でもですね、あにさん。この、いわゆる書物は、第一次大戦と第二次大戦の間に作られたとされますし、現代でも、こうしたありかたは、聴いたことがないような。』


 『そこだ。つまり、こおれは、地球産ではないのだあ!』


 しばらく、間が空いた。


 まりこ先生と、新山悟が顔を見合わせてから、大爆笑した。


 『きゃああああ、っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは。』


 兄さまは、憮然とした表情であります。


 『笑うな。それこそ、こうした『G級ホラー』というか、『ギャグラー』というか、そういうお話の定番だ。あの、摩耶真くんに聞いて見給え。』


 怪物になった摩耶真は、やっと気が付いて、あたりを見回しながら、意味不明の言葉を吠えている。


 『彼こそが、その、具体的な証拠を提示してくれている。』


 まりこ先生のお兄さまは、物理学、医学、文学、天文学に学位を持ち、しろうと裸足のアマチュア・フルート演奏家でもある。


 『だあってェ ・・・・・いくらあんでも、うちう人はないでしょう。うちう人はあ。』


 『うちう人が嫌ならば、地底人でもいいぞ。異世界人でも、平行世怪人でも、ダンジョン人でも、地獄人でも。12次元人でも、とにかく、この通常時限には存在しない連中だ。まだ。特定は出来ないが。この学校の教師たちは、おまえなどの一部を除いて、その、怪物、もしくは、怪物化した連中だ。そうして、いま、この地域の人々が、次々に怪物化し、ここに集結しつつあるのだ。』


 『じゃあ、なぜ、我々は、変わらないの?』


 『そこだ。きみ、あの、ラーメン屋に行ったか? 今日か、昨日か。』


 『それあ、この子と一緒に、行きましたよ、ここに潜入する直前に。』


 『おいらも、さっき食ったし、昼も食ったし、夕べも、その前の昼も食った。』


 『ものすごく、おばかな共通点ね。』


 『いいか、あの店の開祖から、今に至るまで、あそこは、ずっとあそこにあった。この学校と共に。教師たちは、あの店に行くか?』


 『いや。あそこの大将と、理事長は、犬猿の仲だから、あたくし以外は、ほとんど行かないらしい。そう、聞きました。』


 『みろ。あの、大将、きっと何か知ってるぞ。しかし、その前にするべきは、これだ。』


 お兄様は、さっき剥がしたページを、書物の表紙の前に差し込んだのでありまする。 



              📚



     

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