第18話 『監禁』
『影たちがやってくる。
影に光を奪われれば、あなたも影になる。
影は、悪魔かため息か。』
📚
『なんだ、こりゃ。』
摩耶 真が呆れたように言う。
『原本は、大切に隠してあるわ。それは、コピー。まあ、全体がそんな感じの、へたくそな詩の形になってるんだけどね。でも、書かれているあほらしいことは、どうやら事実みたいね。』
『ばかばかしい。オカルトそのものだい。ぼくは、寝ていたい。』
『だめよ、ちゃんとリハビリしなさい。これは、その一環と思いなさい。』
『なんで、きみが、そんなに介入してくるの?』
『あなたのためよ。ちゃんと、復職して、それをメダルとして、社会に打って出る。病気を克服した音楽教師。有名になるの。』
『やだね。寝る。』
『先生、でも、なんだか、こわおもしろいですよ。ショック療法になるかも。』
『おまえなあ。まあ、食事の恩義は忘れないよ。食わせてもらってるんだし。で、も、これは、あまりに悪ふざけ度が高い。』
『まあまあ、先生、そう気にしないで。お互いだもん。助け合おうよ。この女の人は、なんだか、危なさそうな人だし、それほどの美人じゃないけど、先生の事、気にしてるんだから。』
『こら、それほどの美人じゃないだとお? この、クレオパトラも逃げ出すと言うほどの美女をなんと心得る。まあ、いいわ。いまは、準備。といっても、学校中にパルス発生用のパッドは、もう多数張りつけた。少々剥がされても問題にならないくらいね。あなたたち、裏山を超えて、ケーブルを引っ張って来るのが、一番の大仕事なんだ。全長2500メートル。レンタル費用は、兄貴の大学に任せた。あんたたち、いい、この図面のように、ケーブルをここに引っ張って来なさい。この部屋は、上手い具合に、山際だから、窓から導入する。あたくしは、中央制御装置を設置する。女子休憩室だから、わりに誰も来ない。はず。普通はね。中からばっちり、施錠するし。』
『はあ・・・・・不法侵入とかならないすか?』
『兄がうまくやってるわよ。ここで、待ってるはずだからね。まあ、おばかなわりには、優秀だから。これ、無線機。はい。デジタル秘話式。』
『この先生、先生より、かなり、危なさそうだね。』
新山 悟が言うのです。
『ああ。まったく。危険人物。』
『危険だから、存在意義があるの。ほら、実行あるのみ! 借金返すか?』
『はいはい。』
ふたりは、低い裏山を越えて行くのでした。
***************
まだ、日は落ちないが、これからが、学校の気持ち悪い時間です。
夕方の、人気のない学校ほど、怪しい場所はないですよね。
『今日の宿直は、旦所巌か。生真面目ぼうずだわ。座ったら動かない。お地蔵さまと言われる所以。体力はあるほう。でも、あたしには、歯がたたない。』
まりこ先生は、持ってきたパソコンを、テーブルの上に据えたのです。
これが、中央制御装置であります。
『で、こちらが、核融合エネルギー制御ブラック・ボックス。ふふふふふ。はははははははは。お~ほほほほほほほほほほ。』
しかし、まりこ先生は、あくまで、人類を救おうとしているのです。
************
その時間、ありえないことに、教師たち20人ほどが、教員室に集まっていました。
陣頭指揮に当たっているのは、あの、教頭先生だったのです。
『よいかな、諸君、いよいよ、その時が来た。世界は影たちにより支配される。我々は、栄光ある支援部隊であります。最後の環境整備を行う必要があります。とくに、反体制派の、まりこ先生が、よからぬことを企むに違いない。偵察部隊によれば、裏山方面から秘かに侵入したという報告がある。これから、まりこ先生の確保を行います。その後、事が済むまで監禁し、世界と我々と共に、影化します。まりこ先生は、強いからね。10人かかりで、行きましょう。簀巻きにして、用具室ナンバー3に放り込みます。いいですね。』
『ヴィヴァ・カゲカゲ!』
教師たちは、一斉に叫びました。
******************
理事長室では、校長先生と、現理事長が睨み合っていました。
『あなたね。何するおつもり?』
『理事長。あなたのご先祖様のご要望なのです。あなたは、その計画に協力する義務がある。』
『却下。あたしは、長年、あなたがたの悪だくみを観察してきた。本当に実行するなんて、思っていなかったわ。あの本は、禁断の木の実。さわってはならないの。それは3冊残っていた。一冊は、あたくし。もう一冊は、この学校のどこか。あと1冊が、行方不明。』
『それは、影たちの下にあります。さあ、いまこそ、この世界は、正しい道に進むのです。すべての戦争は廃棄され、宇宙ある限り、平和に満たされる。唯一の規範に沿って。影こそが真実。影こそが、唯一絶対。』
『ばかばかしい。この、拘束具、解きなさい。』
『いやです。まあ、あなたは、貴賓ですから、この室内でだけは、動いてよいです。お手洗いと、食事は許します。あ、食事は差し入れますから。コーヒーと、紅茶はどちら?』
『けっこうです。』
理事長は、手錠をされた形になっているのでした。
そうして、三メートルくらいの鎖につながれています。
猛犬用の、しっかりした、鎖です。
『あなたは、特異体質だから、影化が出来ない。しかし、協力は出来る。あとは、気持ちだけだ。』
『あなた、くび!』
『ははははははははははははははは。まあ、ごゆっくり。では。』
校長先生は出て行ったのです。
『ふん。まあ、生かしてはおけないなあ。ああ、君たち、ちゃんと、見張りなさいよ。』
見張役の先生は、体育の、通称『グレート・テンダマン』と、国語の『暁の君』でありました。
******************
教師10人ほどは、まりこ先生を探して回りました。
まあ、広い学校内と言えど、見て回るべき箇所は、限られています。
ウサギ小屋に、まりこ先生はいないのです。
まりこ先生、危うし。
***********************
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます