第17話 『恋人?変人?』


 摩耶 真は、音楽教師です。


 ただし、まりこ先生とは違う、公立高校の教師、つまり、公務員であります。


 音楽大学では、教育学科。楽器は、フルート。


 ピアノは、あまり得意ではないけれど、授業で使えるくらいはなんとかできる、くらいであります。


 シベリウスさまをこよなく愛する、世間的には変わり者。


 授業中にも、よく、シベリウスさまのピアノの小曲を弾いて聞かせることがあります。


 ときどき、難しい場所は、弾き間違いますが、気にしません。


 実は、これは、大変に貴重な機会なんですが、生徒にとっては、ひたすら迷惑なだけ。


 ただひとり、これまた、おかしな生徒で名高い、新山 悟という子だけが、必死に聞いて、辛口の批評をしてきます。


 音楽以外の教科には、まったく興味がない、問題児ですが、それでも、まあ、大方真ん中あたりには成績が収まるし、たとえば、数学の試験では、学年でただ一人、彼しか解けなかった問題に、全試験時間を費やして、結果、赤点を取ったりしていました。


 数学の先生は、『これができたのは、君だけだ。これだけに時間を取られたな。』とやや不思議そうに言いました。


 もっとも、本人にしてみれば、解けそうな問題が、それだけだったからにすぎませんが。



 この摩耶真は、まりこ先生の恋人でした。


 いや、まりこ先生が、勝手に、そう決めていたのです。


 摩耶真本人は、しべ先生以外には、ほぼ興味なしでした。


 二人きりになっても、手は出して来ません。


 まやこ先生は、不満でしたが。


 まあ、新山悟と、似たもの同士というわけです。


 そこで、1学期の途中から、摩耶真は、学校に行けなくなり、休職状態となりました。


 授業は、他の学校の音楽教師が併任していました。


 授業以外の、なんとか委員、とか、かんとか主任、とか、『合唱部』の指揮者、さらに『正座部』の監督補佐とか、いう仕事が、相当の重りになったらしいです。


 『合唱部』は、下手くそでしたし、期待されていません。


 しかし、『正座部』は、全国的な名門校で、『全国正座甲子園』では、10連覇していました。



 休職期間が一定以上続くと、給与が下がります。


 返却しなければならない部分も出るし、昇進は期待できなくなります。


 仕方がないですが、復帰の意欲は下がるばかりです。


 ところが、新山悟は、実家が、はるか沖合の孤島なもので、学校の近くで下宿暮らしでした。

 

 そこで、ときたま、この、だめな音楽教師のマンションに訪れては、シベリウスや、カスキなど聞かせてもらい、その代わりに、下宿のおばちゃんが作ったおにぎりや、おかずを持って行ってやったりしていたのです。


 ところが、これは、まりこ先生にとっては、敵対行為と映るのでした。


 それでも、他校の生徒をいじめるわけにもゆかず、まりこ先生は、じくじくしながらも、がまんしてきていました。


 鉢合わせすることも、よくありました。


 なぜ、自分の作った、おかずやカレーを食べないのか?


 まあ、下宿のおばちゃんの作るものに比べ、あまりにも、味がよくなかったからにすぎないのですが。



 そこで、その晩、まりこ先生は、自分の恋人と勝手に決めたこの音楽教師を、呼び出しました。


 彼女は、摩耶 真にお金を、いくらか貸していたのです。


 出て行かないわけにもゆきません。


 その晩は、ちょうど、新山悟が、来ておりました。




     🍙🍙   🎹   🎹    🍛 🥄 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る