第6話 『脅迫』その4
宿直の翌日も、まりこ先生にはお休みはありません。
担任を持ってることもありますし、学校の都合でもあります。
大あくびしながら、まりこ先生は自分の机のほこりをブラシで掬ったり、ほこりを拭いたりしておりました。
しかし、これには秘密があって、先生は収集したほこりを保存し、秘かに、分析していたのです。
自分ではできないので、弟さんが勤務する、分析専門の会社に密かに頼んでいました。
先生は、この席に座った先輩たちのその後を追跡調査も、していました。
7人中6人は、病気になったり、不可思議な事故を起こしたりして、そのうち5人はすでに亡くなっておりました。
ふたりは行方不明です。
気になって普通ですが、それは調べて初めて分かったことで、みな学校では伏せられていました。
知らない人の方が多いのでしょうけれど、ベテランは知っていたはずです。
うっかり尋ねて回ると、教頭先生や校長先生にすぐに伝わるので、注意が必要です。
くびになると、生活が出来なくなりますから、それも困ります。
そこで、『名月の局』と呼ばれる、最古参の先生に思い切って尋ねてみることにしました。
彼女は、なんと、ドイツ語の先生です。
この私立学校は、外国語教育に熱心でした。
もともとは、ごく普通の先生だったのですが、定年もすぎて、今はドイツ語だけやっています。
あまり、教頭先生や校長先生とは仲が良くないと、聞いています。
ただし、なかなかの、切れ者だとも。
ただ、とっつきにくい事では、学校一で知られる、難関先生です。
ある、放課後、たまたま一人でいる『お局様』を発見したまりこ先生は、さっそく隣に座って、尋ねました。
まわりくどいのは嫌いな、まりこ先生ですから、直球勝負です。
「ああ、あの席の事か。」
意外と、すんなりと話に乗ってもらえました。
「まあね。あたくしも、くわしくは、存じませんが、あそこは、あなたが赴任するまでは、しばらく使われていませんでした。あなたは・・・・・問題先生として、前の学校では知られていたそうですね。」
「ははは。まあ、やりすぎたかもしれません。」
「そう。校長先生を、辞任に追い込んだとか。」
「そりゃあ、校長先生が、悪事をしていたからです。」
「まあそうでしょうとも。この学校の校長先生は、弟さんだと知っていますか?」
「げ・・・・・・・いやあ、苗字も違うしなあ。」
「ここの理事長の娘さんに、養子に来たのです。」
「ああ、そうなんですか。」
「そう、だから、あなたは、怨まれている。辞任した校長さんは、自殺したのでしょう?」
「まあ、そうです。」
「ふうん。まあ、本人の責任ですよね。」
「まあ、そうですね。いやあ、なんで、じゃあ、採用したのかしら。」
「さあ、そこは、分かりませんことです。ま、理事長様が動いたような話は、聞きましたよ。あなたを路頭に迷わせたらダメだと。あちらの理事長先生は、ここの理事長様の、妹様ですよ。お父様は違うようですが。」
「よくご存じです。そうなんですか。」
「で、あの席は、昔は、落ちこぼれ席と言われてました。」
「なんと。素晴らしいお名前でしょう。落ちこぼれこそ、世界の希望です。この世の光です。」
「ああ、それは、あなたの哲学でしょうけれど。別名、懲罰席です。」
「げ。なにか、起るのですか?」
『お局様』は、じっと、まりこ先生を上から下まで見まわしました。
「まだ、何も無いですね。」
「ほっ・・・・・。はい。」
「まあ、別に何もない、ようは、他の先生方から隔離されているということです。たまたま、病人が多かったのです。確率の問題でしょう。」
「ああ、パワハラですか?」
「あっさり、言いますのね。あなた。」
「気にしませんから。ぜんぜん。へっちゃら。」
「まあ。ニュー・タイプね。」
「ははは。あの、先生・・・この建て物の上側は、すごく高いでしょう。でも、二階までしかない。その上には、何かあるのですか?」
「ああ。そうね。大昔に聞いた話では、戦前は、何かの儀式とかに使っていたらしいです。あなたご存知でしょう。この学校は、ある宗教団体が所有していたのです。昔は。です。今は、用済みですわね。座敷童がいるとか。っほほほほ。」
「やぱり。そうなんですね。」
「は・・・あの、冗談です・・・・が。」
「いいえ、います。あたし、分かります。上には、何かがいるのです。」
「はは・・・・あなた、やはり、そうとう、変な人ね。」
「はい。もちろん。」
まりこ先生には、十分、手ごたえがあったのです。
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