第5話 『脅迫』その3

 まりこ先生は、宿直当日、計画を実行に移しました。


 隠し階段を覆っているベニヤ板は、何か所か釘止めされていましたが、まりこ先生の前には、無いのとおなじです。


 なんせ、2級建築士の資格がある、まりこ先生のこと。


 ご実家が大工さんだったので、こういうのは簡単でした。


 なんで、学校の先生になったのかは、本人もよくわかりません。


 世の中では、職業選択に関する、難しい理論がたくさんありますが、一部の人は別として、おおかたは、なりゆきなのです。


 自分の思い通りには、普通ならないものだ、と、生徒に教えながら、一方で、はっきりした目標を持てなんて教えるのは、教わる方も気の毒だと、まりこ先生は思います。


 職業選択の自由なんて、もちろん、そういうものがあること自体が重要なのは事実ですが、実際のところは、なかなか理念以上には、なりにくいものです。


 と、いってるうちに、まりこ先生は、裏側からベニヤ板を仮止めして、強力懐中電灯を使いながら、ぎこらぎこらと鳴く、古い階段を注意深く上がりました。


 すると、まあ!

 

 なにが、屋根裏でありましょうや。


 そこには、御殿のような、豪華な空間が広がっていたのです。

 

 これは、まりこ先生が予想していたよりも、はるかにすごかったのです。


 校舎の背丈から見て、二階の上に、それなりの空間がありそうだとは思っておりましたが、なんのなんの。


 会議室か、食堂か、ダンスホールか、そこは、よくわかりません。


 ただし、長らく使用された形跡はなく、ほこりが山と積み重なっております。


 こう言う場合は、まま、壁に絵画とか、写真とかが展示されているものなのですが、残念ながら、さっぱりと、なんにもありません。


 きっと、最後に使われた時、きれいにお掃除されたのでしょう。


 下の階は、現代風に改装されたけれど、ここだけは、ほっとかれたという感じです。


 さらに、窓には、がっちりと雨戸が降ろされていて、外は見えないし、外からも見えないでしょう。


 まりこ先生には、むしろ、好都合です。


 天井は、真ん中が高いアーチ型のようになっております。


 その、広大な広間をじっくりと眺めると、向こう側に、ドアがあります。


 先生は、ゆっくりと、古風なノブを回しました。


 カギは、かかっていません。


 ぎゅあぎゅあら~~~~~~~。


 と、ちょっと背筋が寒くなるような音がして、ドアは開きました。


 その先には、短い廊下があります。


 そうして、その両側に、部屋のドアらしきものが、ふたつづつ、つまり、全部でよっつ、並んでいるのです。


 この世に、怖いものなしの、まりこ先生は、躊躇なく、順番に、開けて行きました。



 ひとつ。・・・・・・・・🚪


 ふたつ。・・・・・・・・・・・・・🚪


 みっつ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・🚪


 

 みな、かぎはかかっておらず、なかには、なんにもありませんでした。


 「あらまあ。なんか、期待外れねぇ。つまんない。」


 とか、言いながら、まりこ先生は、最後のドアを開けようとしました。


 下の階との位置関係を、きっちり調べながらです。


 まりこ先生の机の上には、小さな機械が置いてあり、まっすぐ上に向かって、信号が発射されています。


 受信機のレーダー型表示からみると、この最後の部屋が、先生のデスクの真上に当たるようでした。


 しかし、・・・・・・・・・🚪



 「あららら? 開かない。ふふん。そうじゃなくちゃあ。面白くならないわ。」


 まりこ先生は、無理やり開けようとはしませんでした。


 そのかわり、作っておいた、例の『脅迫状』を、ドアの下から、お部屋の中に差し込んだのです。


 「これでよし。あとは、待つべし。」



 まりこ先生は、ほくほくしながら、ベニヤ板をもとの状態に戻し、宿直室に帰ったのです。




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