ルーキーたち
血がにじんだ食堂の構内にルーキーたち5人が集まった。活躍を夢見る剣士レッド、まとめ役で温厚なイメク、冷静なパイロットのバード、力自慢でムービーメーカーのギイト、そして怪我を負ったホージロ。メカドやラークス、アロス、そしてシラスナまでも失った共存軍にとって唯一の希望がこの新兵たち5人であった。イメクはバードたちが合流するまでの間に、ホージロの傷の治療を完了していた。
「よし、これで出血はおさまったね」
「ありがとう、イメク」
「おやすいご用だよ」
笑顔を振りまくイメクに落ち着きを取り戻したホージロ。敵艦内ではあるが訓練時代をレッドは思い出していた。
「大丈夫でしたか?」
そこにバードとギイトが戻ってきて凄惨な現場を見つめた。バードはホージロの傷を心配しているようだ。
「うん、もう心配いらないわ」
ホージロは座り込んだまま、包帯まみれの右腕も持ち上げてみせた。
「歩けそうか?」
レッドが尋ねたのでホージロは立ち上がろうとした。しかし右足に痛みが走りしゃがみ込んでしまう。
「ホージロちゃん!」
すかさずイメクが彼女の肩を支える。
「……大丈夫!」
ホージロはそう言ってイメクの肩を借りながら、ようやく二本足で立ち上がった。
(この傷じゃ、この先は厳しそうだな)
レッドはホージロの様子をみて密かにそう思った。そうしてこっそりとイメクと目を合わせる。
彼もまた同じことを思ったような眼をしていた。
「バード、ギイト。お願いがある」
レッドは真剣な顔つきになって二人に言った。
「はい、なんでしょう?」
「ホージロを連れて格納庫のヘリで待機していてほしい。僕たちも後から行く」
格納庫の敵のヘリを使っての脱出を見据えて、レッドは怪我人であるホージロを先に運んでおきたかった。ホージロは驚いたように尋ねる。
「レッド、イメク、あなたたちは?!」
「任務を全うし、やるべきことを、成し遂げる」
それはこの先に進み、皇帝と戦うことを意味していた。皇帝を倒せば、この戦争は終わる。そのチャンスが目前に迫っているのだ。逃すわけにはいかない。
「無理よ、あなたたちだけじゃ!」
ホージロは涙目になりかけて懇願した。皇帝はともかく、その臣下たちは手強い。特にあの影の王にはレッドとイメクでは敵いそうにない。しかし同時にこの契機を逃してしまったら、皇帝は影の王のような、ならず者を大金で雇い、さらに戦力を増すことは目に見えている。レッドとイメクには撤退するという選択肢は考えられなかった。
「ホージロこそ、その傷じゃ無理だ」
レッドは小さく屈み、ホージロと同じ目線に立った。こうしているとはじめて会った日のことを思い出す。そういえばこう見えてホージロの方がレッドより年上なんだっけ。
「バード、あのヘリコプターを操縦できるのは君だけだ。それにギイトの力がなければホージロちゃんをヘリまで運んでいけない」
イメクは冷静に二人を見つめ、説得を試みた。バードは素直に、ギイト小さくため息を入ったあと、
「分かってるよ。死ぬなよ」
と納得し、レッドとイメクを激励した。
「もちろんさ」
「……必ず戻ってきなさいよ」
ホージロも剣士だ。レッドとイメクの覚悟にしぶしぶ納得し、そう呟いた。これが最後の別れになるような、ならないような気がする。サンガオーを倒したレッドなら今回も世界を救うことができるかもしれない。
「ああ、約束だ」
レッドは小さくうなずくと、ホージロが腕の携帯を操作した。
「影の王の戦闘データを送っておくわ。とにかく動きが速いから、気を付けて」
「ありがとう」
レッドはホージロから送られたデータを確認すると、立ち上がって腰の剣を整えた。レッドとホージロが話している間、イメクはバードに近づきこっそりと言った。
「僕たちが万が一戻らなければ、艦が大気圏を出る前に脱出して」
「いいんですか?」
「うん、でも必ず帰るか心配しないで」
「わかりました。お気をつけて」
今は自動操縦で艦の航行は止まっている。皇帝がこの事態に気づき艦を動き出すまでがタイムリミットだった。
「イメク、敵はもしかしたら内部で分裂しているかもしれません。何かあればすぐに連絡を」
バードは最後にイメクに注意を促した。艦長室での事態、あれが裏切りなのだとしたら戦況はさらにややこしくなる。
「わかった。すぐに連絡するよ」
イメクはバードに小さく頭を下げて、レッドの横に向かった。
「行こう」
緊張と不安がレッドを包み込んでいた。それはギイトに担がれたホージロも同じだった。父さん、メカド隊長、ラークス少佐、フダカとアーク。そしてホージロ。みんなの思いを腰の剣に託して、レッドは歩き出しホージロたちと別れた。大気圏での戦いはいよいよ終盤に差し掛かる。
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