ラークス対シャドゥー
メカド対デス。シラスナ、ホージロ対影の王、アルト。それぞれの場所で戦闘が始まる中、戦艦上空にいるラークスとシャドゥーは未だに膠着状態が続いていた。レッドが去ってから幾度のなく剣を交えたが、お互いの力が互角のため決着がつかないのだ。鉤爪を構えながら、薄く青い目でシャドゥーがラークスを睨みつける。
(この男、俺とまともに殺し合おうとしない。何か秘策でもあるのか?)
シャドゥーは力を抑えて挑んでくるラークスを不審に思っていた。
「本気出せよ。お前の力はそんなもんじゃないだろ」
それに対しラークスも冷静に答える。
「あなたこそ。本気出してくださいよ」
ラークスには分かっていた。もしこのままお互いが本気で戦えば必ず自分は負ける。実戦経験の数、力、スピード、剣術の腕、体力。どれをとってもシャドゥーの方が上で、二人のレベルが違いすぎた。しかしシャドゥーの読み通りラークスには秘策があった。
(まだまだこんなものじゃ足りない)
ラークスは剣を握る手元を見た。彼の剣の柄の部分にはカウンターがあり『ストレスレベル―65』という数字が赤いフォントで示されている。私がこの一撃を繰り出した時がシャドゥーの最後だ。ラークスは柄を見つめた後でシャドゥーを睨んだ。
戦場にはほとんど足を運ばず、離れた司令部から地形図を見ながら指示を送ることが多かったラークスは共存軍一頭脳明晰な指揮官だった。特に南方戦線では奔放でわがままなシラスナに変わり実質的に指揮官を務めていた。さらにメコ将軍をはじめとする上官からの信頼も厚く、アロスが不在の時には宇宙艦隊の指揮官代理も任されたほどだ。しかしその輝かしい功績と裏腹に、彼の温厚な性格も相まって、共存軍ではシラスナやアロス、メカドの影に隠れてしまっている印象がある。だが彼もまた共存軍にはなくてはならない英雄の一人だった。
「ではこっちから行きますよ!」
ラークスは何の変哲もない剣を構えると、ジェットパックの出力を最大限に放出し、シャドゥー目掛けて斬りかかる。シャドゥーは鉤爪で応戦するも、ラークスの勢いは止まらず彼は防戦一方だ。だがその薄く青い目は全く変わらないように見える。
(やはり強い)
ラークスがここまで攻撃をしてもすべて受け流す相手は初めてだった。彼は攻撃をやめて剣の柄のカウンターを見る。『ストレスレベル―70』なかなかその数値は上がらない。
ラークスの剣の秘密。それは刃の部分にあった。一見、何の変哲もない西洋洋式の剣だが、その刃は相手と剣を交えることによって戦闘時の衝撃を吸収するのである。さらにその力は柄に入れられたカウンターにストレスレベルとして数値となって表示され、この数値が100を超えた時、柄にあるスイッチを押すことによって一気に力を放出し、今までの戦闘分の衝撃を相手に与えることができる。まさに一撃必殺の一斬りと化すのだ。
だがシャドゥーはこの剣の能力を知ってか知らずか、あるいはこれまでの戦闘での経験値からなのか、剣と剣がぶつかった時の衝撃を最小限に抑えてきていた。長期戦となると帰艦するためのヘリを失っているラークスが不利になる。何としても早めに決着を着けねばならなかった。
(こっちから攻撃を仕掛けて、ストレスレベルを上げるしかない)
ラークスは焦りの中で、積極的に攻撃をすることを決めた。ストレスレベルが100になってしまえば、あのシャドゥーでさえひとたまりもない威力であることは分かりきっている。しかし逆にその一撃を放てなければラークスに勝ち目はない。
シャドゥーの鉤爪に着いた血が乾き始めていた。ラークスはそれを見てアークのことを想った。新兵として彼を共存軍に向かい入れてからずっと面倒を見てきた部下の一人だ。アークだけじゃない、レッドやイメク、バードたちも今皇帝の旗艦で必死に勝利を目指して戦っている。自分もこんなところで負けるわけにはいかない。
「本気出しますかね」
静かにそう言う彼の眼には闘志が燃え滾る。もともと戦争で英雄視されることや頼りにされることが嫌いなわけではない。ただ自分は縁の下の力持ちしてメカドやシラスナの活躍を支えるだけの存在でいいと思っていた。悪く言うならば、自分のためでも仲間のためでもなく周りに合わせるために戦ってきた。だが今は違う。一人の戦士として、仲間の仇を討つために剣を構える。
「行きますよ!」
これ以上にない大声を上げたラークスが今度はシャドゥーを倒すような勢いで剣を振り下ろす。さすがのシャドゥーも慌てたのか鉤爪で思い切り受け止める。そうすることで刃のストレスレベルがみるみる上がっていく。
(動きが変わった)
シャドゥーはラークスが本気を出したことに驚いていたが、冷静に分析しすぐに自らも鉤爪にかかる力を強めた。そしてラークスの一撃を跳ねのけると、腕を真上に上げ、彼目掛けて大きな鉤爪を振り下げる。ラークスは剣で受け止めたものの、その勢いは強く彼の体は空中で一回転した。
「それで本気とは、共存軍の将校も落ちたものだ」
勝ち誇ったように高笑いをするシャドゥーに対し、ラークスは体制を整えながら静かに笑った。彼の剣は『ストレスレベル―120超』 それは直ちに放出しなければならないと同時に、たとえどんな強者でも受け止めることはできない数値となっていた。ラークスは勝利を確信すると、自慢の愛刀を両手で構えるのだった。
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