機械皇帝の考え

 各地で戦闘が開始されたころ、機械皇帝カルナは玉座間で紅茶を啜っていた。アルバスター総督の考案した作戦は成功に終わり、あとは悠々と宇宙へ引き返すだけだ。唯一懸念があるとすれば白兵で攻撃を仕掛けてきた南方戦線の残党共だろうか。皇帝はティーカップを空にするとデラストラ将軍とアルバスター総督を呼び出した。




「お呼びでしょうか陛下」




 まず先に現れたデラストラが頭を下げ、忠誠の証として跪いた。




「壊滅させられた我が宇宙司令部に宇宙艦はまだ残っておったか?」


「はい、旧式で小型ですが5隻は動きます」


「それはよかった。貴様は数小隊を率いてロケットで先に宇宙へ戻り、小型艦を使ってこの艦を追いかけてくる共存軍の宇宙艦を打ち落とすのだ」




 皇帝の要求はあまりにも無茶苦茶だった。大気内では宇宙艦の主砲が使えないとはいえ、小型艦で大型の宇宙艦を落とすなど不可能に近いことだ。




「あの船には敵軍の総司令官であるアロス・ドラクジも乗っておる。さらに母艦さえ撃沈してしまえば我が艦に忍び込んだ共存軍の兵士共は逃げ道をうしなうだろう。何としてもあの宇宙艦を沈めよ、わかったな、デラストラ!」




 こう釘をさした皇帝の言葉をデラストラは「失敗すれば死だ。特攻してでも打ち落とせ」と受け取った。それに対し何も反論することなく




「ははあ」




と言い、玉座の間を立ち去っていった。そして入れ替わりでアルバスター総督が入ってくる。




「お待たせいたしました、皇帝陛下」




 アルバスターも同じように跪くと皇帝を見上げた。




「アルバスターよ、よく来た。今回の貴様の作戦は素晴らしいものであった」


「光栄です、陛下」


「そこでだが、貴様に一つ大役を頼みたい」




 皇帝は玉座に深くかけながら、手の平を上に向けて両手を広げた。




「はっ、何なりとお申し付けください」




 アルバスターがそういうと皇帝は一度あたりを見渡して、小声で言った。




「……邪気の王を殺してほしい」




 皇帝に突飛な申し出にアルバスターは目を見開いた。




「じゃ、邪気の王さまをですか?」


「ああ。いずれ奴を殺してやるつもりではいたが、まさか向こうから現れてくれるとは好都合だった。奴を殺せばどうなるか知っているか?」


「いいえ、知りません」


「わしが次の邪気の王となれるのだ。そうなれば七神官をはじめ地獄樹海の勢力全てがわしのものになる。そうなれば共存軍に対して逆転勝利をおさめられる」


「そうだったのですか。それでいつやりますか?」


「今だ。この後、奴を呼び出そう」




 アルバスターは皇帝の計画に震えあがった。いくら一人で戦艦にいるとはいえ、皇帝をも凌ぐ権力者の邪気の王を簡単に殺害できるとは到底思えない。




「何を恐れているのだ、アルバスター?」




 皇帝は自身気にアルバスターに声をかけた。




「い、いえ恐れてなどはいませんが、ただ……」


「安心しろ。わしと話している時に背後から剣で斬り殺すのだ。それに貴様が失敗してもいいようにもう一人、ヌガート提督にも話はしてある。やつの護衛である神官シャドゥーは戦闘に出ていて今は艦におれず、邪気の王は今一人だ。この機を逃す手はないだろう。そうだ、成功の暁には貴様にさらなるポストをくれてやる。例えば、地獄樹海を長なんてどうかな。現職のザイガードは当然、処刑してやる予定だ」


 確かにそうだとアルバスターは安心した。それに地獄樹海の最高支配者か、悪くない。アルバスターは静かにほほ笑んだ。


「素晴らしいお考えにございます。このアルバスター、剣の腕じゃ少しは知られていますからね。邪気の王を消したとなればさらに名声は上がりましょう。喜んで参加させていただきます」




と深々と頭を下げ、腰の黒い剣に手をかけた。




「ふっ、傲慢な邪気の王め。お前の時代は終わった。これからは邪気が支配する裏社会もすべてわしのものになるのだ。首を洗って待っておくんだな」




 誰に言うでもなく皇帝は呟いて、アルバスターと二人で笑い合った。




☆☆☆




 今、大気圏内の戦いはさらに激しくなっていく。皇帝を目指し走るレッド、イメク、バード、ギイトの4人。最強の剣士の座を賭けて影の王と対峙するシラスナとホージロ。デスと命がけで戦うメカドに、シャドゥー相手に一撃必殺を繰り出そうとするラークス。そしてお互いの暗殺を企てる皇帝と邪気の王。どんな結末を迎えようとも戦争は必ず終わる。そのカウントダウンはすでに始まっていた――。




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