シラスナ

 ラークスは司令部のジムでトレーニングに励んでいた。いつものように10キロのランニングを終え、給水所へドリンクを飲みに行くと見知った顔がいることに気づいた。




「シラスナさん」


「あら、ラークスじゃない」


「隣、よろしいですか?」


「ええ、いいわよ」




 シラスナはラークスのためにベンチの端へ寄った。




「南方戦線はどうでしたか?」


「面白かったわ。いっぱい殺しちゃった」


「ふふ、相変わらずですね。メコ将軍からまたまた大活躍だって聞きましたよ」


「いいわね戦争って。また私の階級があがっちゃう」


「今は大佐でしたっけ?」


「そうよ」


「すごいですよね、僕なんてまだ少佐ですよ」


「もう少佐でしょ。あんたの方が出世は早いわよ」


「ははは、そうでしたね」




 ラークスは機械の右腕で頭をかいて続けた。




「戦争は思ったよりは早く終わりそうですね」


「そうでもないわ。今まで張り合いがなかった皇帝軍が少しづつ強くなってきてる。皇帝の思想に共感した戦士たちが続々と入隊しているようね」


「そうなんですか。確かにシラスナさん、珍しく怪我してますもんね」




 ラークスはシラスナの右頬を見つめた。大きな絆創膏に血が滲んでいる。




「ああこれね。久々に強い相手だった。針剣(針のように細い剣)を乱暴に振り回すロボットでね。あんなに苦戦したのは不死身のサンガオー以来だったわ」


「で、そいつは仕留めたんですか?」


「いいえ」




 シラスナは苦笑いした。




「逃げられた。南方戦線は勝利に終わったけど、奴を取り逃がしたのは痛い。それくらい危険な相手よ」


「皇帝軍にはまだ我々の知らない猛者たちがいるんですね」




 ラークスはドリンクを強く握った。シラスナは水筒を空にすると




「メカドは元気?」




と尋ねた。




「……元気ですよ。ただシラスナさんとメカドさんが一緒だと喧嘩しちゃうからってメコ将軍が同じ部隊にならないように取り計らっているんです」


「そう。なんか悪いわね」


「いやむしろありがたいですよ。ベテラン二人の喧嘩を仲介する僕の身にもなってください」


「まあそうよね。メカドももういい大人なんだし、しょーもないことで揉めるのは恥ずかしいって気づいてほしいわ」


「シラスナさんだっていい大人じゃないんですか?」




 ラークスの疑問にシラスナはかぶりを振る。




「私はまだ34でしょ。メカドはもう50歳に近いんだから大人になるべきはあいつの方なのよ」




と渋い顔をして立ち上がった。




「もう行くわ。アロス大佐にご挨拶に行かないと」




 ラークスは慌ててシラスナを呼び止めた。




「ん? どうかした?」


「シラスナさん。アロス大佐はもう……」

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