訓練開始!

 レッドは寮の部屋で夕食をとり、シャワーを浴びていた。明日から念願だった共存軍での日々が始まる。実戦は少し怖いが強い相手との出会いに胸が躍った。筋肉質な腕で蛇口を閉めると全身乾燥機で体を乾かした。


 ローブに着替えるとレッドは愛刀を膝にのせてベッドに座った。明日からの訓練に備えて刀を研いでおきたい。しかし鞘に手をかけたところでベルが鳴る。




『レッド、いる?』




 幼いながらも落ち着いた声。ホージロだ。




「ああ、ちょっと待ってくれ」




 レッドは急いでジャージを羽織った。ローブ姿を見せるのは恥ずかしい。




「どうしたんだ。ホージロ?」




 レッドがドアを開けるとホージロは何も言わないまま、ずかずかと部屋に入りベッドに座った。




「剣を研いでたの?」


「いや、今研ごうとしたところ。明日から訓練だしな」


「必要ないでしょ」




 ホージロは不満そうに言った。




「わからないじゃないか。使うかもしれないし」


「宇宙艦の狙撃手よ。使うわけないじゃん」




 手に顎をのせて不貞腐れるホージロの姿を見て、レッドは察した。




「……南方戦線に行けないのが悔しいのか?」


「むしろレッドは悔しくないの?」


「そりゃまあ悔しいけど、戦争なんだから仕方ないだろ。それに宇宙艦配属は一時的なもので、人員が集まれば南方戦線へ行けるってイメクも言ってたじゃないか」


「……むっ」


「とにかく明日早いんだからシャワー浴びて寝ろよ」




 レッドがホージロに言うと彼女は




「ごめん、そうする」




と答えて部屋を出て行った。




(ふう、先が思いやられるなあ……)




レッドはジャージを脱ぎながら頭を抱えた。




☆☆☆




 次の朝、レッドは剣を持って訓練が行われる格納庫に向かった。真新しい軍服に袖を通している。階級は二等兵。一番下っ端だ。


 格納庫にはすでに新兵が集結している。20人ほどだろうか、イメクの姿もあった。




「やあレッド、おはよう」


「おはようイメク」


「ホージロちゃんは? てっきり一緒だと思ってた」


「いや。あいつまだ来てないのか」




 格納庫を見渡してもそれらしき姿はない。端の方にラークスとカフェで会った女の姿が見えた。今日は上官の証である白い軍服を着ている。間違いなくシラスナだ。




「新兵、二列に整列!」




 集合時刻と同時に青髭を生やした強面の男性が現れた。新兵たちは慌てて横に二列で並ぶ。青髭男は低い声で列の前に立って言った。




「私は共存軍大尉、メカド・リーグルである。まずは出席をとる」




 ようやく軍人らしい人が出てきたなとレッドは思った。




「バード二等兵!」


「はい!」


「ハスラー二等兵!」




メカドは大声で手元の名簿を読み上げていく。




「イメク二等兵!」


「はい!」




レッドは自分の名前が呼ばれるのを今か今かと待っていた。しかし彼の前でメカドの声は止まった。




「ホージロ二等兵!」




返事はなかった。あたりを沈黙が包んでいく。レッドは自分の心臓の鼓動が聞こえはじめた。




「ホージロ! 二等兵!!」




 メカドは驚くほど大きな声で今度ははっきりと言った。




(何やってるんだあいつは……)




 レッドはホージロが南方戦線へ行けなかった不満で除隊したんじゃないかと不安になった。仕方なく彼女がいない旨を伝えようとした瞬間、




「レッド二等兵!」




とメカドに呼ばれた。




「あっ、はい!」


「では訓練をはじめる」




 きびきびしたメカドの声が格納庫にこだました。レッドは射撃訓練がはじまるのかと思っていたが、予想に反して一日目は基礎体力訓練だった。走り込みに腕立て伏せ、綱登り。どれも剣士のレッドには簡単なものだった。休憩中にイメクが息を上げながら近づいてきた。




「はあはあ。こんなにもきついのになんでレッドは平気なんだ?」


「……まあ一応オズカシ村で修業を受けてたからな。それよりもホージロのやつ、どうしたんだろうか」


「ホージロちゃん。一時間経ったのに来なかったね」




 イメクも不安げな顔をした。


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