ゴツマの商人

 翌日の朝は驚くほど寒かった。昨日、ジルド山の溶岩を体感したためだろうか。レッドは不気味なほどの寒さを感じていた。さらに霧まで出てきて村全体が薄暗い。




「この先の暗い山道を抜けると大きなゴツマという街に出る。そこからヘリコプターでサンガオーのアジトがある山の頂上につく。帰りはグライダーが出ておる」




スケリドは不安そうな顔で言った。




「ご親切にありがとうございます」




 レッドが頭を下げるとホージロが




「気を付けて」




と言った。レッドは一晩泊めてもらったスケリドの家を後にし、霧の中へ飛び込んでいった。シャクーはまだ眠っていた。




☆☆☆




 血の臭いがする。近くに転がっている怪物の死体からだろう。でも彼らももとは人間だった。レッドはこの世界の惨たらしさを受け入れた。この世界を何とか変えたい。


 峠を抜けると細い一本道が続いている。片側は崖で落ちたら死ぬ高さだ。しかしジルド山の恐怖に比べればマシだった。こんなところにも人間が歩いているのか。足を進めると開けた街にでた。小さな屋根が不規則に並んでいる。活気もある。ここがゴツマだ。レッドが街に入りと入り口に奇妙な立て札を見つけた。




≪これより先ゴツマ サンガオー自治区


 ヘリコプター:グライダーの貸し借りを禁ずる≫




「サンガオー? 魔法使いか。ここに書いてあることが本当か、街で確かめてみるかな」




 レッドは立て札に注意を払いつつ街に入った。ゴツマには古い時代の建物が多くある。新しい車は見当たらない。まるで江戸時代にタイムストップしたみたいだ。街のメインストリートでは武器商人たちが刀やブラスターを売りさばいている。




「どこよりも安いよ、おっ兄ちゃん剣士かい?」




 頭にバンダナをしたロボットの商人がこちらに話しかけてきた。




「ああ。ひとつ聞きたいんだが、入り口の立て札の注意書きは本当か?」


「本当だ。俺たちは魔法使いには逆らえない。この前も勇敢な旅人が奴のアジトまで行こうとしたんだ。でもよヘリコプターで向かったさきに大きな光の玉が飛んできて、そいつは殺されちまった。そしてヘリコプターを貸したやつは死刑にされた。悪いことは言わねえ。魔法使いを討伐しようと考えないことだ」




 商人は暗い顔で言った。




「わかった。気を付ける」


「見たところ剣士だけど、あんたどこへ行くんだ?」


「ダゴヤで軍人になる」


「共存軍か。じゃあ強いんだ」


「わからない。まだ誰とも刃を合わせていないんだ」




レッドは商人の目を見ると




「親父さん、僕にヘリコプターを売ってくれ」




とポケットから電子財布を取り出した。




「……あんた正気かい? 魔法使いには勝てない。俺も死刑になっちまう」


「だから買うのさ。サンガオーは貸し借りを禁じてるけど売買を禁じているわけじゃない。もし失敗しても死ぬのは僕だけだ」




 商人は不安げに




「……わかった。初めてあんたの剣を見た時からただものじゃない気配を感じてた。そうとうお強いんだろう。あんたには負けた。売ってやる。」




「ありがとう、必ずこの街を救ってみせるよ」


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