ホージロ

「こいつはわし等の仲間ではない。サンガオーの手先かもしれん」




 爪のある怪物は流暢に話すと少女を睨みつけた。




「スケリド様よく見てください。この者は剣士です。人間です。サンガオーの手先なら剣を持てない魔物のはずです」




 白い髪に青いパーカーの少女はスケリドと呼んだ怪物を諭すように言った。




「……確かにな」




そういうとスケリドはレッドを見て




「悪かったな」




と声をかけた。レッドはようやく両手から剣を離した。




「わしはスケリド。そいつはホージロだ」


「びっくりさせちゃってごめんなさい。怪我はない?」




 ホージロと呼ばれた少女は剣を鞘に納めると、レッドのほうを向いた。彼よりも年下に見える。




「ああ、大丈夫だ。ありがとう」


「あなたどこからきたの? 傷だらけだけど」


「僕はレッド・ドラクジ。オズカシ村からダゴヤを目指してる」


「ダゴヤ? もしかして入隊希望者とか?」


「ああ」


「じゃあ一緒だね、私も戦争に行くの」




 レッドは驚いた。こんな小さな体で戦争に行こうというのか。しかし先ほどの身のこなしを見るに相当な使い手に違いない。




「ホージロ。戦争に行く前にわしらには倒すべき敵がいるだろう」




 スケリドが俯きながら言った。




「それはわかってはいますけど」




 ホージロの表情が曇る。




「オズカシ村の剣士よ。とりあえずわし等の家へ来い。話は山ほどある」




 スケリドとホージロは町はずれの小さな家にレッドを案内した。ボロボロになった村の中でこの家だけはわずかに人の気配を感じる。レッドが家に帰ると幼い少女が玄関で待っていた。




「お姉ちゃん、叔父ちゃん。おかえりなさい」


「シャクーただいま。今日はお客さんがいるのよ」


「客人じゃシャクー。失礼のないようにな」




 五歳くらいの白い髪の女の子はレッドに小さく頭を下げる。




「こんにちは、シャクーです」


「こんにちは。僕はレッド。オズカシ村の剣士だ」


「お兄ちゃん剣士なの? じゃあ強いんだ?」


「もちろん、三剣者とも知り合いさ」


「お姉ちゃんよりも強い?」




シャクーが興味津々に尋ねる。レッドは口ごもった。




「当たり前でしょ。オズカシ村出身なんだもん、ね?」




 ホージロはレッドを見て言い、




「さあシャクー。あっちでお姉ちゃんと遊ぼっか」




シャクーを連れて庭に出て行った。




「剣士よ。こっちへきたまえ」




 居間のほうからスケリドが声をかけた。レッドには爪のある怪物が居間の座布団に座り、お茶を啜る光景が奇妙に思えた。




「二人はわしの姪だ。ホージロは大人のように振舞っているがまだ成人もしてない」




レッドは居間に座りこむとスケリドの話を聞いた。




「この村の住人は今やわし等だけになってしまった」


「二人の両親はどうなったんですか?」


「死んだよ」




 スケリドは自らの爪を見つめた。




「サンガオーという魔法使いが、ある日突然この地に現れたんだ。わしをはじめ逆らう者たちはみな怪物に変えられてしまった。村一番の剣士だったわしの兄貴は怪物になってもなおサンガオーと戦いつづけたんじゃ。そして見せしめとして処刑された」




「ほかの村人たちはどうなったんですか?」




「怪物に変えられた者たちの中で他の村人を襲い始める者たちが現れた。襲われた人間姿の村人たちはわしら怪物になった者たち全員に疑いをかけた。最終的に村中で殺し合い生き残ったのはわしらだけじゃ」




「なんてむごいことを……」


「父さんと母さんはよく戦ったと思う」


「ホージロ」




ホージロはシャクーを連れて居間に入ってきた。




「サンガオーのアジトまで乗り込んで、あいつの顔に傷までつけた。でも奴の魔力にはかなわなかった」


「そんなに強い相手なんですか?」


「わしらではどうにもならん」


「僕がやります」


「なんじゃと?」




スケリドとホージロは驚きの表情を見せた。


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