ジルド山

――オズカシ村――




 ここはこの国一番高い山、ジルド山の麓。オズカシ村の剣士レッドは、父と同じ軍人となるべく、村を旅立とうとしていた。




「気を付けてな」




 村人総出での見送りにレッドは小さく頭を下げた。




「ありがとう、みんな」




 オズカシ村は少し変わっている。ジルド山は噴火を続けており、溶岩が村のすぐそばまで流れ込んでいる。しかしシールドで村は固く守られているためこの村に届くことはない。


 レッドは村一番の剣士になった。そして共存軍からの入隊の誘いも潔く受け入れた。戦争はもちろん怖い。だが新しい世界への冒険と強い敵との出会いという誘惑に彼は勝てなかった。同じようにこの時代の多くの若者たちは共存軍に命を預けていった。




「また夏になったら、戻ってくるよ」




 レッドは手を振って旅に出た。目指すは最大の大都市ダゴヤである。ここには真新しい国際空港と共存軍の基地がある。車をつかえば二時間も掛からないがレッドはあえて歩いていくことにした。これも修行の一環である。


 剣と3日分の食料を持って村を出たレッド。まずは最初で最大の難関、ジルド山を越えなければならない。険しい山肌と灼熱の溶岩が彼を待っている。麓の山道を抜けると、シールドに包まれたジルド山が見えた。レッドはシールドの中に足を踏み入れる。




「なんて暑さだ……」




 シールドの内部はレッドの想像をはるかに超えていた。さらに火の粉と溶岩が上空から降り注ぐ。汗が岩に落ち、ジューと焼けるような音を立てた。恐怖と疲れがレッドの足を止める。




「これくらい、軍隊に比べれば……」




 気合で足を動かすと出口が見えてきた。ふらついた足を一歩一歩進める。やっとのことでシールドを抜けると、レッドは静かな森の中に入った。ここから「魔法使いの国」に入る。ダゴヤまではまだほど遠い。


 不気味な樹海が広がる「魔法使いの国」はオズカシ村の隣にある自治エリアだ。政府や軍でさえ立ち入りを制限されている。その内部は活気がなく、古びた空き家が立ち並ぶ。レッドは昔からここには来てはいけないと教えられていた。オズカシ村の人々が街に行くためにはジルド山とここを抜けなければならない。そのため村人の多くが村を出ないまま一生を終える。


 レッドは荒れ果てた集落に出た。疲れた体を休めるためにベンチを探していると、人間ほどの大きさの横たわっている骨を見つけた。一瞬、人かと思ったが違った。頭蓋骨にはまるで恐竜のような大きな牙がある。




「これはなんだろう」




 不思議がって見渡すと、レッドは辺りに同じような骨がいくつもあることに気づいた。それは爬虫類のようでも両生類のようでもある。しかし人間らしいものは一つとしてない。不気味な骨たちが横たわる村の広場跡まで来た時、レッドは突然背後に気配を感じた。




「なんだこいつは!」




 強靭な爪と牙をむき出しにした服を着た怪物が彼に襲い掛かったのだ。レッドは剣を抜いたが既に遅く、怪物の爪が彼の目前に迫る。レッドが目を瞑ると、白い髪の少女が彼の前に入り剣で爪を弾き返した。




「お止めください! スケリド様!」




 少女は荒れ狂う怪物にそう呼びかけた。


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