Ⅲ
「こんにちは」
日暮れに信号待ちをしていると
隣から声が聞こえた。
聞き覚えのある声。
僕は声のした方を向く。
そこにはサラリーマン風の男がいた。
空耳だろうか。
僕はさらに後ろを向いた。
誰もいない。
信号が変わって歩き出すと、
前から笑顔の彼女が走ってくる。
一度会っただけなのに、
僕に飛びついてきて、腕をつかんだ。
やけになれなれしい。
でも、悪い気はしない。
「運命の人だって」
「そう言われたのか」
達樹はニヤつきながら僕を見ている。
「からかわれてるのかもな」
「そんな」
「いいじゃないか、たとえからかわれてるとしても」
「きっかけなんかそんなもんだよ」
彼女は、どんぶりのご飯を上手そうに食べる。
ハンバーグステーキ。
目玉焼きの乗った。
僕は皿に盛られたライスを、
フォークですくっている。
「結婚詐欺って知ってる」
突然、彼女が言い出す。
「あたし、引っかかりそうなの」
彼女が僕をじっと見た。
「誰に」
「誰にって」
「騙されそうなんだろう、誰かに」
「そう、騙されるの」
「だから誰に」
「あなたには言えない」
「友だちが言うの、あなた騙されてるって」
「だからその男って誰」
「あたしって、男に騙されるの」
「普通そうじゃない、結婚詐欺って」
「男が女の子をだまして、お金を取って逃げる」
「ねえ、あなたお金に困ってるの」
「いや、僕は」
「あたしは、ちょっと困ってるんだ」
にっこりと笑う彼女。
「新手の詐欺じゃないか」
達樹は何度もうなずいている。
「そんなもんかね」
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