Ⅱ
「間違いないな」
達樹は自信ありげに僕に言う。
「そいつは、女装趣味の奴だよ」
「いまどき、男だって街には立たないさ」
「そうなのか」
「でも、キレイだったよ」
「女装趣味の奴が、キレイじゃないっていうのは偏見だよ」
「もちろん、そういう気分に浸りたいんだよ」
「だからそれっぽく立っている」
「まあ、それはいいんだが」
「会えないもんだな、本命には」
「でもさ…」
達樹が僕の言葉を遮る。
「それは違うぞ」
「それは普通の恋愛だ」
「えっ」
「勘違いして、チャンスを逃がすなよ」
「チャンス」
「チャンスじゃないか。また会うんだろう」
「そうだけど、どうするんだよ。スウィート・デヴィルは」
「そんなものはいないよ」
「それでいいじゃないか。そう思え」
すっかり満足そうな顔をしている、達樹。
「それでいいのか」
「騙されてボロボロになるよりいいだろう」
「俺のように」
「まるで他人事だな」
「他人事だよ」
「背が小さいって言ったよな」
「僕の前を横切ったんだよ、小さい女が」
「もうやめとけ」
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