スウィート・デヴィル

阿紋

街を歩いていた。

「そのうち会えるよ」

達樹が意味ありげに僕にそう言って、

ニヤリと笑う。

「誰なんだ、そいつは」

「会えばわかるさ」

何やら物欲しげに街頭に立つ。

娼婦のように。

今どきこの街にも、そんな奴らはいなくなった。

いたとすれば、そいつは男。

間違いなく男。

僕はそんな男の隣を通り過ぎる。

「でかいんだよ」

独り言のように僕がつぶやく。

次の瞬間、小柄な女が僕の前を横切った。

僕の存在なとまるで気づいていない。

ずっと正面だけを見ていた。

それからしばらくして、

僕はレストランにいた。

何か食べようと思って入ったのだけれど、

まともな食事のメニューが一つもない。

つまるところ、酒のつまみしかないのだ。

仕方なく、一番小さいグラスの黒ビールを注文し、

フランクフルトとゆでたジャガイモを食べている。

これなら、ファミレスに行けばよかった。

居酒屋だって、もう少しまともな食い物がある。

「米が食いたいな」

「あたしも」

僕は自分の向かいの女の子を見る。

いつからいた。

「気が合うわね」

女の子がにっこり笑う。

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