第四話 金木くんにお礼、再び

   

 それから。

 私は何度も、金木くんから専門書を借りるようになった。

 特定の分野に限れば大学の図書館にも負けないくらい、彼の蔵書は充実しているのだ。本を借りるつもりで行ったのに、それこそ図書館で過ごすような感覚で、つい彼の部屋で勉強してしまう、という場合もあった。

「悪いわね、居座っちゃって……」

「気にするなよ。俺の方だって、貸し出すのも構わないが、むしろここで読んでいってもらった方が気楽だから」

「あら、私が返さないんじゃないか、って心配?」

「いやいや、大河内のことは信じてる。だけどさ、なんとなく本能的に……」

 まあ、そうだろう。高い高い専門書なのだ。本当は、ヒョイヒョイ何度も他人に貸す本ではないはずだった。

 それでも私に使わせてくれるのは、きちんとしたディナーを奢ってもらった、という気持ちがあるからに違いない。

 逆に私の方では、あの一回のディナーだけでここまで恩恵にあずかってしまうのは、少し気が引ける。だから……。


 一ヶ月後。

「ねえ、金木くん。また一緒に、ディナーに行きましょうよ。私、世話になりっぱなしだから」

「えっ、また? それは少し悪い気が……」

「気にしないでよ。ほら、今なら私、今月分のバイト代が入って、懐具合に余裕あるから。というより……」

 世話になっているお礼、と言うと彼が気おくれするようだから、別の理由を持ち出してみる。

「……私自身、バイト代が入った直後って、自分へのご褒美というか、何か少し贅沢をしたい気分なのよねえ。金木くん、それに付き合ってくれないかしら? 金木くんの分も、私が出すからさ」

 口実ではあったが、そういう気持ちが全くない、というわけでもなかった。だから、嘘を言っているようには見えなかったのだろう。

「まあ、それなら……。喜んで、ご相伴にあずかるよ」

 と、金木くんは快諾してくれた。

   

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