どうでもいい話  作・藤野遠子 

 ――まだ進路悩んでたんですか、先輩。もう四月も終わるのに、今から受けられる企業あるんですか。そしてそもそも教育実習行くんじゃないんですか。


 ……はあ。先生になりたくて、なれると思うけど、悩んでる、と。しかも悩んでる理由が教員の業務量の際限のなさでも教え方がどうとかでもなく、自己満足のために教員を志すのは人間としてどうなんだろうみたいなこと考えて訳分かんなくなったから、と。誰かの役に立ちたいけど、そう思うのって自己満足のためだよね、結局私は自分のことしか考えてないんだ、ってことですか。


 それで、あとはなんでしたっけ、こうやって悩むのも正直しんどくて本当は好きなことして程よくお金稼いで楽して生きていきたいとも思っちゃう自分が最低に思える?


 ……先輩って勉強できるのにほんとに頭悪いですよね。前から思ってましたけど、どう拗らせたらそんなことになるんですか。


 誰かに強制されない限り、どの道を選んだってどうせ自己満足ですよ。先生になって社会の役に立ちたいのも、楽して生きていきたいのも。先輩が思ってるほどの違いなんてありませんよ。


 なんで泣きそうな顔するんですか。良いじゃないですか、この地球で起きてることなんてどうせ全部自己満足ですよ。いいですか、溺れてる子供を助けるのは見捨てる自分より助けようとする自分の方が愛せるからでしょう? 好きな人の幸せを願って身を引くのは、好きな人が幸せだと嬉しい自分のためでしょう。人間が願うことは結局全部自分のためですよ。


 それに人間が火を焚くのを我慢してオゾン層を守ろうが、正体不明の感染症を必死こいて乗り越えようが、何億年後かにはどうせ地球ごと太陽に飲み込まれて終わるんですから、先輩が楽するかしないかも好きな人から身を引くか引かないかも宇宙的には大した話じゃないんですよ。だからこそ好き勝手していいんですよ。一番幸せになれそうな道があるなら遠回りでもそっち行けばいいじゃないですか。効率の話なんてやめましょうよ、いつか死ぬのに生きてる俺たちは存在からして非効率的ですよ。ちゃんと非効率的に生きましょうよ。




 ――ああそうだ、もう就活も教育実習も卒論も捨てて俺とどっか遠いとこ行きません? 美容院にも寄りましょう。一度くらい髪染めてみたいって言ってましたよね、やりましょうよ。ド派手なインナーカラー、意外と似合うと思いますよ。


 いや、勘違いしないでください。先輩のためじゃないです。この地球で起きてることなんてどうせ全部自己満足って、言ったじゃないですか。

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