第1話 ④
というわけで、春のある日のこと。クラスカースト上位の男子...Y本、サッカークラブのK路、M原、A山、K本。こいつらに俺の力を思い知らせる時が来た。
きっかけはほんの些細なこと。授業中にY本は前の席の男子にちょっかいをかけるきらいがある。どうやら去年からそういうことをやっているらしい。文句を言ったら逆ギレしてそいつを泣かしたことがあるらしいとか。それ以降Y本のちょっかいに強く文句を言う奴はいなくなったとか。
かつての俺も、あいつのちょっかいに対して強く出ることが出来なかった(理由は前回の話へ戻って確認だ)。
けど今は違う。俺は嫌がることをしてくるクソ野郎には容赦しない!人の目も気にしない!!
「背中にペン刺してんじゃねーぞY本ォ!!!」
振り向き様にY本の髪を掴んで頭を机に思い切り叩きつけてやる。突然の怒声と激突音に誰もがこちらを注視する。授業は当然中断される。
はっ、それがどうした?今は他人のことなんか知るか。今は、目の前にいるこのクソ豚野郎に今までの
「いって~~!何やねん、NNSテメェこらぁ!!」
案の定逆ギレしたY本がうがーっと吠えながら俺に掴みかかろうとする。馬鹿が...格闘技を小2から研鑽し続けてきた俺の実力を思い知れっっ!!
「へ......っぷげぇ!」
合気でY本を床にビタァンと力一杯叩き落としてやる。渋川先生程ではないが上手くいった。そして倒れたY本に跨って座りマウント態勢を取る。
ここまでくればもうずっと俺のターンだ。格闘技や喧嘩においてこの態勢から逃れられる奴は基本いない。本物の喧嘩を知らないだろうこんなクソガキなら尚更な!
「力の差を思い知れクソガキ」
その一言を告げた直後に殴る。
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る...。
額、鼻、側頭、頬、口、顎、喉...顔面部分を容赦無く殴りまくってやった。拳一発一発にほぼ全力をこめて、きちんと捻りも加えて放った。俺の一撃は格闘技をやっている同学年のガキでも即ダウンする威力を持つ。こんな素人ガキなんか一瞬で瀕死だろうよ。事実、Y本は既に失神していた。
床や近くの机にY本の血が飛び散って付着していく。その中々凄惨な光景を目にしたクラスメイトどもが全員ドン引きしていた。
まぁぶん殴り続けた時間は実際10秒程度だ。すぐに先生が止めに入ったので公開処刑はすぐに終わった。周りを見てみると誰もが顔を真っ青にしていた。中には泣き出している女子もいた。かつて痛い目に遭わせたK路だけは、ああやっぱり...って感じのリアクションだったが。
クラス内で...後に学年内でも、俺が喧嘩が強くてヤバい奴だと認識された瞬間だった。
昼休みに職員室に呼び出されて担任の先生と臨時懇談を行うことに。
「NNSは格闘技がかなり出来るというのは知っている。だから同級生との喧嘩にそれを使うのは、先生感心しない。格闘技を素人相手に使うのは危険だってこと、コーチや師範にちゃんと教わったはずだろ?」
割とガチなトーンで、俺がやったことに対して非難する。何か俺が悪者扱いされてるようなので俺も切れ気味に返す。今の俺には、ここにいる全教師にも余裕で倒せる力があるからな、何にも怖くねーぜ!
「Y本は弱い者虐めをする汚くてクズな奴です。先生知らないの?あいつは無意味に同級生をど突いたり、授業中に嫌がらせしたり、皆の前で誰かを恥かかせたりとかしてるんですよ?そして今日だって俺を弱い奴だとでも思ったのか、俺にも嫌がらせ行為をしてきたから、俺は奴に制裁を加えたんです。それだけです。
先に言っときますけど、あのクズ野郎に謝ることは一切無いですからね。授業中断させてしまったことは謝りますが」
俺の何の悪びれの無い物申しに先生たちは一瞬押し黙り、後日親同伴で話すことになった。あーあ、めんどくさ。けど俺は気持ちを偽ることはもう止めたんだ。思ったこと・言いたいことは全部言ったるからな!
「人を意味無くど突いて嫌がらせするような奴をぶん殴って何が悪い!!俺は謝らないし、この考えを変えることは無い!この言葉も、断じて取り消すつもりはない......!」
言ってやった。先生と母さんの前で堂々と。目力込めて、机をバンと叩いて、それはそれは、威圧感込めて言ってやったよ。
「先生らが悪いんだよ!ああいうことをするところを全く見てない先生らが!泣き寝入りしている同級生が何人いたことか!俺はY本による不当な暴力や嫌がらせの被害に遭った同級生たちの分も込めて殴ったんだ!そこに嘘は無い!!俺は自分の正義に従ったまでだ!!!」
俺は二人にだけでなく、隣の教室や廊下にいる誰かにも聞こえるよう大声で主張してやった。因みに同級生たちの分とか、全部嘘である。全部かつての俺の分である。
後ろからドロップキックされた分、皆の前でズボンをずらされた分、全校集会の時に何度も嫌がらせされた分、給食のデザートプリンを何度も盗った分、修学旅行での風呂時間中に俺の服と下着をどこかへ捨てた分等々...!Y本には数えきれない恨みがあるからな...!しかも小学生だけではない。奴には中学でも嫌な目に遭わされたからな...。今回はそれらに対する5割程度の報復だ。これで済ませるつもりは絶対に無いからな...!
「NNS、そのくらいにしておきなさい」
ここで母さんが俺を諫めて落ち着かせにくる。先生に何言か話して最後に謝罪して、一緒に退室した。
「NNS、喧嘩で技を使うのはダメ。それ以前に暴力で解決を図るのは、ダメ」
帰宅後母さんがもっともらしいことを並べて俺に忠告する。今度また格闘技を使ったら習い事を辞めさせると言ってきたのでとりあえずはいはいと生返事だけして引っ込む。
俺は...喧嘩でこそ格闘技を使う意味と意義があると考えている。
まともな人格の形成の為、スポーツマン精神の為、社会体育、礼儀...格闘技はそれらの為にあるんだ、と大半の人間はそう口に出すだろう。
けど、どれだけきれいごとを並べようと結局は武器を持たせていることに変わらない。
それは何の為にあるか...身を護る為。それは本当はどこで意味を持つのか...実戦じゃねーのか。実戦...スポーツ界での試合・闘い。果たしてそれだけ?
ちげーよ絶対。日常で突然起こる喧嘩...これも実戦に入るはずだ。
喧嘩でこそ格闘技を使わないでどうする?使わなかったせいで自分が酷い目に遭っても良いというのか?俺は認めねー。誰だって喧嘩では自分だけが鮮やかに制することを望むはず。理屈じゃない、本能だ。
故に喧嘩で格闘技を使うことに躊躇する必要は、無い!
とはいえ俺はまだ色んな格闘技を修練している最中だ。あと一年くらいはまだ習い事を続けたい。だから今後はなるべく技を使わずに敵を下すとしよう。筋力的に俺の方が圧倒してるし、結局技を使うまでもないことやしな。
まぁそういうことがあってか6年生の残りの学校生活は、俺に嫌がらせをしてくるイキりどもはいなくなった。カースト上位の連中も俺に一切ちょっかいをかけなくなった。むしろ距離をすごく取られた。賢明だな。お前らから何もしなければ何も起こらないのだから。俺から仕掛けることは普通無いからな。
ただ...あの一件のせいでイキりどもだけじゃなく他のクラスメイトたちも俺から離れてしまった。本来の歴史から大きくずれた早々のボッチ化である。
...いや、こうなることは薄々は予感していた。力をある奴がそれを思い切り、しかも間違ったやり方で振るえば人間誰もがそいつに恐怖して脅威に思う。それが普通だ。だからこれは当然の結果ではある。寂しいけどな。
でも良いや。俺は孤独に慣れてるし。大学出てから3年以上も孤独を味わってきたんだ。これくらい慣れっこさ。とはいえ今後の学校生活、特に中学に影響が出そうだから、少し手を打とう。
「Y本、K路。俺にちょっと付き合え。あと皆も暇してたらグラウンドに来てくれ。あ、先生もちょっと付き合って下さいよ」
放課後6年1組のほとんどをグラウンドに集める。力を間違ったやり方で見せれば恐怖される。なら正しいやり方ならどうかな?
というわけで今から100mの計測を行うことにした。そろそろ実力をテストしようと思ってたことだし丁度いい。
K路をスターター役にさせてY本の足をスタートブロック代わりに使う。そして先生が計測係だ。
俺は今日初めて人前で本気で走ることにした。この年齢なら速く走っても大丈夫だと判断したからだ。それに小学の間って実はそんなに運動レベルって伸びねーから、ぶっ飛んだ記録は出ねーんだよねー。
皆が見つめる中、K路の号令でスタートして全速力で駆ける。皆が俺の走りを見てどよめいているのが分かる。僅かな喧騒の中、俺は全ての力を出し切って100mを駆け抜けた。
「記録......11秒、70...!!」
先生の報告にクラスメイトたちが沸き立った。いつの間にか教室からも見物していた生徒らもスゲェと騒いでいた。
そして俺はというと...微妙だった。目論見は大体上手くいったのだが、一方タイムがそんなに伸びていないことが不服だった。そりゃまぁ、陸上やってる小学生の中でもこの記録は全国トップを名乗って良い(特に2000年代では)レベルだけど、中学からじゃあこの程度の奴はゴロゴロいやがるからなァ。やっぱ俺には速く走るセンス無いのかな...。
ともあれ、この一件で俺のところに再びクラスメイトが集まってきた。Y本とも喧嘩した仲だとかでテキトーに丸め込んで手懐けたし。それに俺はかなりのゲーム通でもあるからな、すぐに元通りになれた。女子も何人かは話しかけてくるようになったから、成功だ。いつかは性交もしたいな、好みなタイプの可愛い子らと。
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