第1話 ②


 小3が終わった頃、俺は自身の体の変化に大変驚いていた。

 50m走の記録がなんと6秒20と、自己記録を更新したのだ。最近サッカーでよく走ってるから確かに鍛えられてはいるのだがそれでも所詮は小学生レベルで考慮されたトレーニングしかやっていない。

 なのにこの成長か...。と、そこまで考えたその時、俺は一つの可能性に気付いた。


 ――成長期!!


 ガキのうちは毎年が成長期だ。一年経っただけで身長も運動能力も大きく変わってくる。スポーツをやっている奴なら尚更そうだ。

 かつての俺も、中1の100mが13秒前半だったのに対して中3になると、12秒前半に伸びていたからな...。ガキだとたったニ年で100mの記録が1秒以上も伸びるんだぜ?ヤベーよ...。

 小5のかつての俺の50mの記録は確か8秒前半だった。んで翌年の記録が7秒80に伸びていた。一年間で50mの記録が0.5秒以上縮めてこの記録。まぁガキのうちなら普通だろう。


 しかし俺の今の運動能力はそこそこ出来る25才レベルだ。いや...正確に言うと、全盛期が更新され続けている最中だ!

 そんな今の俺が、ガキの成長期補正までかかったら...一体どうなるんだ?

 この50mの記録だって、3年後にはもっと上へ...。

 そこまで考えた俺は震えが止まらなかった。恐怖ではなく歓喜とワクワクからきた震えだ。この推測が本当なら、俺は10年後にはとんでもないスーパースポーツマンへと成長を遂げているのでは?

 これならなれるかもしれない......かつて諦めた夢、陸上競技の世界トップスプリンターに。


 中3では市内で3位入賞したものの、高校では全く記録が伸ばせず、しかも怪我もしてロクな競技成績しか修められなかった。最後の予選会では無様な走りをしてしまって一人で嘆いてたっけ。

 あれをきっかけに俺は大学からは陸上部に入ることを止めた。恥をかくだけだから、周りがレベル高くてつまらないから。

 北京オリンピックのあの100mとリレーを観て、俺もあそこで走りたいと本気で思った。そこから陸上競技に打ち込んだ。結果分かったことは、俺にはガチの世界の中で速く走るセンスがなかったことだけ。皆速い、自分が遅く思うくらいに。結局挫折して夢を捨てた。


 しかし陸上競技をすることを辞める気にはなれなかった。未練と言っていい。確かに上へは行けなかったが、俺自身にまだまだ走りたいという気持ちが今も残っていた為、アマチュアレベルでズルズルと続けていた。

 けどこのやり直しで...俺は目指そうと思う、世界トップスプリンターに。これは明らかなズルだろう。ドーピングが可愛く見えるくらいの最悪なチート方法だ。だがズルでも良い!俺もあのデカい舞台で走りたいんだ...!

 やってやる。俺はやるぞ...!

 この時俺は新たに、それもかつて諦めたデカい夢を目指すことを決意した。



 トレーニングを積む一方で、遊びにも全力で打ち込んだ。小3の秋にはポケモンシリーズで「エメラルド」が発売され、そこから本格的に厳選を始めた。メタモンという孵化厳選に欠かせないポケモンがこの作品にじゃんじゃん出るからだ。育成環境も秘密基地を使ってしっかり整えてすぐに戦闘個体ができるようにした。そして当時のキッズたちには攻略ほぼ不可能と言われていたあのバトルフロンティアを制覇してやった!

 さらに友達(この頃の俺には一応そういうのはいたのだ)と通信対戦もしたのだが、俺が強過ぎるとのことで誰も相手されなくなりました(´・ω・`)

 因みにこの年の冬にはニンテンドーDSも出てきた。取りあえず買ってもらった。


 あと異性というか少女たちの対応についてだが。この頃の俺は癇癪を起してよく暴れていたんだよなー。んで女子だろうと乱暴に叩いたり蹴ったりしたという黒歴史があったんだよなー...。

 だからまずは女子への暴力をなかったことにする。まぁ今の俺が女子どもに腹を立てることは無いからな。しょうもない理由でキレてばかりいたからな。今の俺はそういうのは無くなった。よって女子に暴力などは普通しない。まぁ男子どもには普通に振るうが、ただしこの時点では手加減してだが。

 この頃は女子と遊ぶ機会は必ず乗るようにしておいた。考えてもみろ。今から5年以上経った頃には、男子と女子との距離はそれはもう!高校になるとさらに一緒に遊ぶ機会なんか激減する。そして大学になると、もう絶望的...。

 だから今のうちになるべく女子と遊んでおくべきだ。彼女らから誘われたら絶対に乗る。


 この頃よく遊んだ女子は...同じマンションに住んでるK村まや、H田歩美、M谷麻美くらいか。どれも思春期くらいになると良いルックスの女子になるんだよなー。こういう子らと遊んだことがあるというのはステータスになるからな。しっかり遊んでおくぜ。

 あと学校では、M田まゆき、K川実穂、H本あかねとかも後に良いルックスの少女に成長するからなー。そういえばあいつらをオカズにしたことあったっけなー。

 卒アル捨てないで良かった...っとこれ以上はマズいからここまでにしておこう。


 とにかく学校では後に可愛くなる子らとはなるべく関わっておいた。雑談、係りの仕事、体育の時間および運動会など。思春期以降女子とほとんど縁が無かった俺にとっては貴重な時間だった。

 そしてこれらの出来事は後に大きな伏線回収と...なれば良いなぁ。

 



 四年生になった頃、サッカークラブでカースト層が出来上がった。よその学校のS中とK林とⅮ丸、あと同じ学校のK路とかが最近チーム内で「こいつにはあまり逆らってはいけない」感キャラを出してきている。

 かつて俺は他のチームメイトと同じくあいつらには強く出ることが出来ず、その影響でクラブでは段々喋らなくなってしまい、終いにはチームにいることが苦になって辞めてしまったのだ。

 ここが次の修正ポイント。今回の俺は強い態度を取る!「こいつ怒らせちゃいけない」的なキャラになることを徹底して、あいつらを下してやる。


 

 「前行かしたるから前行かして――」

 「黙れ」 ガッッ


 順番抜かしなどさせない。制裁。


 

 「いった!お前今のファールやろが!ふざけんな謝れ!!」

 「は?俺のフィジカルに弾かれてこけただけやろが。そもそもお前の方がファールしようとしてたやろうが。逆ギレすんな雑魚」


 自分の貧弱さを隠してマウント取ろうとするな雑魚が。



 「お前なんか足速いだけのくせに!調子乗ってんじゃねーぞおい!!」

 「調子乗ってんのはお前やろうがS中クソ野郎、こら。ミニゲームで負けたからって俺に突っかかるな」


 男子のそねみとか、醜い以外の何物でもないわ。


 ある日、俺の態度についにキレたS中を始めとするカースト上位組が、俺に牙を向ける。かつての俺だったならこの状況は多勢に無勢だ。だが今の俺は、ただ今全盛期更新中の25才だ!!



 ボゴッ「ぐふぅ」

 ゲシッ「ぎゃん」

 ドガッ「おあ...っ」


 

 結果は当然俺の圧倒的一人勝ち。本気出すと骨折や内臓破壊とかやらかすからもちろん手加減してやった。


 「次俺に下らん因縁つけて突っかかってきたらぁ......マジ締めるぞこら」


 これをきっかけにクラブのカーストトップは俺になった。かといって俺はあいつらイキリクズと違って圧政を強いることはしない。まぁ馴れ馴れしくしかしあんまり調子乗ったことをするなとだけ言っておいた。

 これにて過去の汚点をまた一つ、良い方へ塗り変えることに成功した!小学生時代の俺は高学年から発言力が弱体化してしまい、意思を通すのが苦手なガキだった。そのことを俺はずっと悔いたまま生きてきた。


 元はと言えばここでしっかりしていれば、俺のかつての人生もう少しマシな方へ進んでいたはずだった。もう以前の俺とはおさらばだ。我を通す者こそが強い。今の俺は口だけじゃない。力もちゃんとある。大の大人が相手でも関係無い。俺は強いし、ここからさらに強くもなる。ここからさらに成り上がっていくぜ。


 この時期からは陸上競技の本格的自主トレも始める。主に100m走のトレーニングだ。単に走ったり、ジャンプ運動やったりなど小学生の体格でできるトレーニングを広い公園で一人黙々とこなした。

 ただ...公園には時々柄の悪い連中が現れることもある。ある日の夕方、トレーニングしていると中学生のイキリ集団が公園のど真ん中を占拠して駄弁っているところに遭遇する。俺が後から来たことだし公園は皆が使う場所でもあるから、俺が走るスペースを空けろと言うのはちょっと違う気がするからスルーして空いてるスペース使ってトレーニングをしていたのだが、


 「おい見ろよあの小学生。一人でなんか走ってんぞ」

 「意味わかんねー馬鹿じゃねーの」


 などと努力している人間に対して貶め発言をしやがったので、小学生の俺が中学生のイキリどもを圧倒的武力でねじ伏せて制裁した。


 「努力している人間をそうやって揶揄って笑うクズどもは皆死ねば良いと思ってるんだよねー。ここで死んどくか、ん?」

「「「すみませんっしたーーー!!!」」」


 という感じで公園に時々現れる感じ悪い連中を、たとえ高校生だろうと〆て回った。結果、この公園にマナー悪いガキどもが来ることが減ったのであった。良いことしたぜ。


 因みにこの時点の俺は、一度に複数の不良学生をズタボロにできるくらいの喧嘩レベルになっていた。






*卒アルは捨てられない。


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