第5話 神様は科学的に存在しない~賢吾~

 科学的に見て、神様など存在しない。


 志水しみず賢吾けんごはそう断定している。

 都合のいいこと悪いこと。

 説明がつかないもの。

 誤魔化したいもの。

 それら全てを『神様の仕業』だということに出来る便利な概念に過ぎない。


 だから呼び出してきた『かみさま』が本当の神だとは露程も思っていない。

 TwitterなどのSNSでよくある金持ちの道楽だろうと推測していた。


 神様が何者であるかなどというのはどうでもいいことだった。

 賢吾が興味あるのは『どんな願いごとでも一つだけ叶えます』という言葉だけだ。


 願いを叶えると言っても、もちろん人間のすることだからできることには限界がある。

 たとえば死んだ人を蘇らせるとか、タイムスリップして過去に行くとか、そんなことは出来るはずがない。


 しかし人気のアイドルと結婚したいとか、何の業績も上げてないのに名声だけ得たいとか、そういうことは人間でも可能である。

 むろん権力者や大金持ちならば、などの条件は付くが。


 そういった特別な人間が願いを叶えてくれるという前提で、賢吾は最善の『願いごと』を考えてきたつもりだった。


 彼は常に最善の一手を考えて行動することを信条としている。

 学生時代に籍を置いた研究室でも、今の会社でも、常に思慮深く行動してきた。

 もしこの企画が明らかに悪戯の類いだと分かったらその時点ですぐ帰るつもりだった。




「それにしても遅いね。もう集合時間過ぎてるのに」


 小太りの男が首からかけたタオルで汗を拭いながらぼやいてくる。

 年齢は自分より少し上のようだが、定職に就いている雰囲気はない。

 ニートか自由業、可能性としては前者が高いだろうと賢吾は分析していた。


「まったくだね。時間にルーズなのは勘弁してもらいたいよ」


 さっきからしきりに話しかけてくるこの男は一体どんな『願いごと』を考えて来たのだろう。

 大して興味はないが、ふとそんなことを考えた。


「ねぇ、ここが『かみさま』との待ち合わせ場所?」


 気だるげな声が聞こえて振り返る。

 やって来たのは髪を明るく染めて、長く伸ばした爪に無意味なデコレーションを施した、いわゆる『ギャル』と呼ばれる部類の若い女だった。


「そうだけど。君も参加者?」

「そ。よろしく」


 遅れたことに謝りもせず、スマホを弄りながらぞんざいな挨拶をしてくる。

 見た目も態度も嫌いなタイプだ。

 態度が不快ということもあるが、それ以上に思考や行動が読めないというのが苦手な理由だった。

 他のメンバーもあまり関わりたくないのか、すぐに目をそらしていた。


「まだ『かみさま』来てないの?」


 ギャルは視線をスマホに落としたまま訊ねてくる。

 長い爪なのによくそんなに器用に操作できるものだと感心するほどの指さばきだ。


「そうみたいだね」


 答えながら賢吾は改めて参加者を眺める。

 陰鬱な者や得体の知れないニート。

 軽薄そうなギャルとどこにでもいそうな女子大生。

 そしてサラリーマンの自分。


 ずいぶんちぐはぐな印象だ。

『かみさま』とやらは一体なにを基準に参加者を選んだのだろう。

 賢吾は自分を含めた参加者の共通点があるのかと考えていた。

 常に思考を続けることで優位に立てる。

 それが彼の信条だ。

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