第7話
私たちは宿を出て、花の都フィナンシェへと旅立った。宿のドアを閉めるときデュークはこういった。
「ミュリュ、そのペンダントのことだだが・・・・・・少し俺たちに預からせてほしい」
私はなぜかと聞きだした。デュークやトーマを疑っているわけではないけれど、これは母にもらった大切なターコイズのペンダントだ。
「理由は後で言うから。お願い、ね?」
トーマもなぜだか介入して、せがんできた。どうしてそこまでと聞きたかったけれど、二人の真剣なまなざしに耐えかねてとうとう絶対に無くさないと約束を交わしてしまった。
「ありがとう、ミュリュちゃん。絶対に無事に返すから」
「・・・・・・はい、必ずですよ?」
首をかしげてトーマを見ると、顔が赤くなっていた。それを不可思議にもデュークがいまいましげに見ている。この二人の構図がわからない。兄弟なのは確かなのに。
「あの、二人は兄弟ですよね?」
「・・・・・・そうだよ?双子のね」
トーマは元の顔色に戻り、デュークもうなずいた。くだらない質問をしてしまった。私はそろそろとボストンカバンを持ち直した。二人は頷き合い、今度こそ旅路を踏んだ。
旅路への前に買ったものは懐中電灯にテントといくつかの硬いパン。それからロープとピッケル。そして、顕微鏡にやすりのようなもの。最後の二つを除いてシンプルだった。
「なぜ顕微鏡とその・・・・・・やすりですか?」
「ええ、ああ。まぁ、とにかく必要なんだ」
トーマは澄ましていた。
「・・・・・・さぁいくぞ」
「・・・・・・そうですよね、介入してすみません」
「・・・・・・いや、ミュリュは悪くはない」
だそうだ、デュークが言っていた。気を取り直して私たちは歩みを進めた。田舎だけあって街を抜けるとすぐ林に変わった。一気に気が弱くなるけれどデュークがあの時、私は強いと言ってくれたから弱音を吐くのはよしておきましょう。
夜が更けるころには私たちは森の中にいた。カラスのざわめきに暗い足元。ここで懐中電灯が必要になってくるのね。懐中電灯を腰に垂らせて道を歩いた。二人は森の奥の奥へと歩いていく。私は必死に追いかけた。なんどか転びそうになって、そのたびに二人に助けてもらう。
「ふぅ、今日はこのくらいまでかな」
トーマが立ち止まって、汗のかいた額をぬぐいだ。ようやく座れると私はへとへとになって座り込んだ。
「ミュリュちゃんは休んでね。後は俺たちがやるから」
「ええ、そんなわけには」
トーマと言い合いになる前にデュークが割って入った。
「トーマの言うとおりだ。ミュリュは休んでいろ」
「・・・・・・はい」
このデュークの優しい威圧感には逆らえず、私はおとなしく途中で汲んだ湧き水を飲んでいた。私がこの後の会話を聞くのは私が寝床についてしばらく経ったあとだった。
私は眠りについてはいなかった。目をつむっていたのは考え事をしていたのだ。
ひそひそ声はいやでも耳に入ってきた。なるべく聞くまいと思ってはいたけれど、会話の内容はどうしても無視できなかった。
「これは、ターコイズではないよな」
これはデュークの声だった。
「ああ、ターコイズにしては純度に優れすぎているし」
水を飲んでいるのだろう、トーマか知らないけれど飲み物がのどを通る音がする。
それにしてもこの二人の会話がさす方向は、私のペンダントに向いている気がしてならなかった。
「やっぱり、あれかな」
「・・・・・・いや、まさか」
渋くうなずく二人の声。気が薄くなり、遠のいていった。
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