第6話
酔ってしまった。
「嘘、一杯しか飲んでないのに?!」
私は顔を赤くして、頭がふらつくまま椅子に寄り掛かった。デュークが驚いているのが視界の端で見える。
「度数、4%だよ?!」
「そんなに酔うんだったら飲ませなければよかったな」
二人であたふたしているけれどぼやけた頭の中、何もできない。私は大丈夫ですとグラスを奥に追いやる、つもりが瓶を倒してしまいそうになった。
「おっと!」
トーマが慌てて、瓶を抑える。デュークが腕組をして何か考えている。しばらくそれをどさくさに紛れて見ていたら、急に立ち上がりダイニングを出たと思ったら瓶いっぱいの柑橘系ジュースを持ってきた。そしてなぜか隣に座る。
「お前はこれだ」
はい、と瓶を持とうとすると避けられる。テーブルには一緒に持ってきたと思われるグラスを置いてそれに注いでいる。
「え、だ、大丈夫ですってばぁ」
「いや、ミュリュちゃん大丈夫じゃないから」
ほら飲めとデュークがグラスを手に持って私に近づける。しょうがないのでありがたく口を近づけて飲ませていただいた。
気づいたらベットの上だった。目を開けてびっくりする。
「デュークさん?!」
いきなりとびあがったせいか目がくらむ。
「ほら、急に起き上がるな」
背中を支えられて再び頭が枕に沈む。深く深呼吸をして、デュークを見つめた。デュークさんってほんとうは優しいんだ。はじめはなんだか近づきづらい雰囲気だったけれど、親近感がわいた。
「喉は乾かないか」
「・・・・・・ええ、少し」
「水を持ってくるから待ってろ」
ドアが閉まった後で、ふふと笑う。側近だった給仕のことを思い出して懐かしくなった。
「ほら、もってきたぞ」
ありがとうございます、とコップをもらう。デュークが眉を下げている。なぜかとたずねると泣いているといわれた。頬を触ると確かに濡れていた。
「・・・・・・私いつのまにか」
「きっと、お前の気づかない間に何かを感じているのだろう」
「ええ、仲の良かった給仕のことを思い出しました」
「・・・・・・給仕?」
「ええ、ミルフと言いました。今頃はお友達のところで働いています。・・・・・きっと」
ヒューマのところできっとメイドをしているんだわ。そうにちがいない。悪い考えはよしなさい、私。
「・・・・・・思い切り泣けばいい」
デュークは目をつむって腕組をした。情けなくも涙がこみ上げてくる。わけもわからない涙だ。自分でも気づかない何かに、いや気づきたくない涙だ。強くなりなさい、私。
と言い聞かせても効果は反対を行き、とめどもなく涙が溢れてシーツを濡らしてしまった。嗚咽もこらえきれない。
「きっと、急にいろいろ起きたから頭が追い付いてないんだろう」
はい、という声さえも震えていた。私はこんなに弱かったのだろうか。今まで強く生きることを願ってきたのにここにきて泣いてしまうとは。
「お前は、強い。だれよりもだ。ただ、今は泣け。もっと強くなるためにな」
その一言は私の核心を突くような言葉だった。まるで心を裸にされたようで、けれど暖かいヴェールに包み込まれるぬくもりを感じた。お母さんよりも、お父さんよりも、ずっとずっと。
ひとしきり泣いた後、トーマさんが顔を見せた。
「あ、れ。ミュリュちゃん泣いてるの」
「・・・・・・ほっとしといてやれ」
二人は部屋を出て行った。私は帰り際に渡された蒸しタオルで顔を拭いた。
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