第2話

「おいまじでどうなってんだこれ」



 螺旋階段を下りる音がしてそのほうを見るとトーマがトランシーバーを片手に、眉をしかめている。そうとう腹が立っているのだろう。


「どうした」


 と私がここにいるよう留めておいたデュークが、嫌な予感がしたような顔をした。


「兄さん、俺たち首だってさ」


 え、と気の抜けたような声に私は思わずびっくりした。冷静沈着な彼が情けない声を出したのだ。デュークはそのまま気が抜けて床に崩れてしまった。


「まぁ、破綻するのはわかってたけどさ。俺たち一応幹部なんだけど?」


 まだ二人はその問題で頭が埋め尽くしているようだ。私はあたりを見回して、騒然とするメイドたち一人一人に安心するように声をかけた。


「お人よしだねぇ、ほんとうに大変なのはあんたなのに」


 トーマは頭の後ろに手を組んで、私を見た。


「私は、どうなるのですか」


 胸のターコイズのペンダントを握りしめながら、聞いてみるとトーマが鼻で笑った。


「そんなの、貧困生活か風俗に決まってんじゃん」

「ふ、風俗」

「まーあ?あんたならかわいいから風俗に行けるんじゃない?貧困層になるよりはましでしょ」


 嫌、風俗なんて。


「けっこうです。ただ自分が崖の上に立たされていることはしっかりと胎に収まりましたわ。それにしても、あなた方はどうするのですか」


 横からデュークが割り込んできた。


「あなたに関係ない。さぁ行こうトーマ」

「え、この子面白いじゃん。しばらく連れて歩こうよ」


 え、とデュークが立ち止まる。私はトーマの手を取った。トーマは目を見開いて、私から顔をそらす。


「連れて行ってくださるの?」

「・・・・・・まぁ、別にいいけど」


 おい、とデュークがトーマの顔をひっぱたく。日常茶判事なのかトーマは平気で私と話し出した。そうしていると次第にデュークの表情も柔らかくなった。


 お父様は石油王で有名な人だけれど、確かに少し前に起こったオイルショックのさだなかでなぜいつものように生活ができるのだろう、貴族生活の中でもそれは薄々と感じていたわけでもなくはないけれど、まさかあの悪徳で有名なバトゥルンで借りていたなんて。・・・・・・そのバトゥルンも破綻を迎えたみたいだけれど。


「なんだかなぁ、世の中不景気だな」


 元気だったトーマも足の運びが徐々に遅くなり始めていた。


「私たち、どこへ行くのでしょうか」


「んー、とりあえずこの先に宿屋がある町があるからそこに一泊させてもらうつもり。やっすい宿だけどね」


 主に話をするのはトーマと私だった。私は気を利かせたつもりで言葉を区切った。


「これも運命です。お互い生きましょう」


 トーマは何も言わずうなずいた。アスファルトの道は足の裏に寂しさをにじませていた。

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