借金取りたちとの貧乏生活も案外悪くなかった

佐藤すべからく

第一章

第1話

 なんだかメイドたちが騒がしくしている。うっすらと目を開けると、まだ寝ぼけまなこな私に水を渡してそれを飲んでいると、大きな音に肩をはねさせた。怒鳴り声が聞こえてくる。


「ミュリュ・フリュン様!」

「どうしたのミルフ」


 直近の給仕が顔を青ざめて、私に言った。


「借金の取り立てがお屋敷に入り込んできました!」


 ミルフの手は震えていた。


「しっかりなさい、ミルフ。どうして私の屋敷へ取り立てが来るの」


 ミルフは少し呼吸を整えてから、必死に私を見つめた。


「ご主人様がどうやら借金をされていたようです」

「借金・・・・・・?それは本当なの?」


 どう見ても嘘をついているようには見えないけれど、確認をしなくてはいけない。


「はい、ほんとうです」

「・・・・・・わかったわ」


 私は起き上がり、眠るときに着る絹を脱いだ。ミルフが着替えを私に渡す。

ベッドからすぐさま下りて、部屋を出た。メイドたちが廊下を行き来している。


「静かになさい」


 メイドたちは私の強い言葉に何か言いたかった言葉を呑み込んだ。ロビーから怒号が確かに聞こえてくる。私は一階へつなぐゆるやかな螺旋階段を下りてドアを押し開いた。


 右にプラチナブロンドのひょうきんな男の人。


「あ、やっときたね」

「・・・・・・ほんとうだ」


 青い髪が特徴の冷静な男の人が眼鏡の奥から私を見る。


「・・・・・・あなたたちなの?あの大きな声は。メイドたちが怖がっていたわ」

「知らないみたいだね、僕たちは借金の取り立てにきたんだ」


 プラチナブラウンの髪色の男の人は名前を聞くと、やすやすと教えてくれた。


「俺はトーマ・ロメス、隣にいるのは俺の兄ちゃんでデュークってんの」


 デュークは頭を下げるだけだった。


「・・・・・・お父様が借金をしたといのは本当のことなの?」

「ほんとうに決まってんじゃん、はーい入りますよ」

「待って!」


 勢いで入ろうとしてきたのを私の体で行く手をふさぐ。


「中には入らないで、メイドたちが怖がるわ」

「ずいぶん優しいね、でも仕事だから」


 男の人にはかなわず、いとも簡単に屋敷の中へ入ってしまった。続いてデュークも入っていく。


「メイドたちには何もしないで!」


 私はデュークの腕にしがみついた。


「あなた、変わっていますね」


 デュークは冷ややかな視線を私に送った。それに怖気づいたけれど、私がしっかりしなければ。


「ここにはたしかにお金に変えれるものはたくさんあるわ。でも、すべて取る前に少しだけ時間をくれないかしら」

「・・・・・・時間?」


「ええ、時間よ。メイドたちに失職させてはいけないわ。私が責任を取らなくては」


 私は震える手を押さえて、入り口付近の受話器を手に取った。とりあえずお父様に

事情を尋ねなければ。ダイヤルを回して、鼓動が高まる中、応答を待つ。


 しばらくして、私は受話器を戻した。お父様はお出にならない。ではどうすれば・・・・・・。


「どうしてそんなに必死に。他人のことなのに」


 デュークは物珍しそうに私を見下ろした。


「ええ、他人よ。でも私の大切な人たちなの」


 私は再び受話器を手にした。お父さんがダメならあの人しかいない。受話器が応答する。


「もしもし、ヒューマかしら、ええ、私よ。今、私の家がひどい状況なの。お願い、

少し時間をくださらないかしら」


 私はこの事件のことをできる限り話して相手に理解を得た。


「ええ、お願いよ」


 念を押して受話器を置いた。これで一安心。実はヒューマは私の友達で、メイドたちを雇ってくれるらしい。ひとまずは安心をした。

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