19920622 とあるオカルト雑誌の投稿欄

 これは私が体験した話です。

 私は、母が離婚をしたので都会からI城県にある母の実家へ引っ越してきました。

 なんだか学校や近所の人は排他的で、価値観も合わなくて、クラスの子と言い合いになったんです。

 そんなある日、猫がいなくなりました。I城県に引っ越してきてすぐに拾った可愛い猫で、地元に友達がなかなか出来ない私の唯一と言って言い心の支えでした。

 

 大人に相談することは私も思いつきました。 

 でも、母はなかなか帰ってこないし、心配をさせるのも気が引けます。

 祖母は「今日はツバメが低く飛んでたから畑仕事はしまいにしてきちった」というような、迷信を信じて生きている人で当てになりません。

 拾った猫を避妊することにも「せっかくの雌猫なのに勿体ない」の一点張りで強く否定してきたくらいで、ちょっと苦手です。

 なにが勿体ないのかは教えてくれませんでした。

 祖母の反対を押し切って、母を説得して無事に避妊手術が終わってからは、かわいがっていた猫のことを見向きもしなくなりました。

 だから、猫がいなくなったことにも心配をしてくれないのです。


 毎日、餌の時間になると私は餌を片手に猫の名前を呼んで近所を歩き回りました。

 そんなに遠くへ行ってないはず…そう思っていつものように猫を探しているとき、私と喧嘩した女の子たちが通りかかったのです。

 彼女たちは私を見てクスクス笑い合うと、ある家を指さしました。

 ところどころ捲れた錆びたトタンの塀からは、ボロボロに剥げた土壁が覗いている家です。

 近所で有名なおかしな人がいるという噂の家でした。

 なにかあると思った私は、勇気を出して、ボロボロに家の前まで行きました。

 庭には草がボーボーに生えていて、なんだか生ゴミの臭いと強い獣臭がして帰ろうか迷いました。

 誰もいない庭でした。人の気配がしない家。

 猫の手がかりがないかだけ見ようと思って納屋?みたいなところへ足を踏み入れると、農薬を入れる大きなビニール袋がありました。

 ズタズタに引き裂かれていて嫌な感じでした。

 袋の周りには乾いた血が飛び散っていて、血の付いたビニール紐がボロボロに錆びた金だらいの中に沈めてありました。

 金だらいの中にはボウフラが沸いていて茶色く濁っていて臭くて、虫もたくさんいました。

 気持ち悪くなって仰け反ると、ボロボロの家に人影が見えました。

 そっと納屋の影に隠れて様子を見ると、キィキィとうるさい音を立てた引き戸の向こうに、土だらけになった猫用のベッドが置いてありました。

 うちにあったものと同じものだったので私は息をひそめながらじっと玄関を見ていました。

 出てきたのは骨と皮だけの真っ黒に日焼けしたおばあさんでした。

 茶色や黒い液体で汚れた服のままで出てきたおばあさんの顔は、のばしっぱなしの白髪に隠れてよく見えないけれど、手元になにか抱きかかえているのは見えました。

 それは、私が飼っていた猫みたいに見えました。よく見えないけれど、目つきも怪しくてぶつぶつとなにかを呟いているこわいおばあさんに抱えているものを見せてとはいえません。

 しばらく庭を歩いて何かを踏んだり、地面に落ちている何かを口に入れたりしていたおばあさんが玄関の土間にある猫用ベッドに抱えているものを置いたのが見えました。

 それからぐるりと玄関の方を向いて両手で引き戸をキィキィ鳴らしながら閉めます。

 玄関が閉まってしばらくして、誰も出てこないことを確かめてから私は家に帰りました。

 翌日、私は猫を取り戻すために学校を休みました。

 一日中見張って、あのおばあさんが猫を抱きかかえているところに走って行って、なんとか抱えている猫を取り返そうと思ったのです。

 それは思ったよりもうまくいきました。

 あのボロボロの家の近くは人があまり通らないからです。

 お昼が過ぎた頃、おばあさんが引き戸をキィキィ言わせながら外へ出てきました。手に抱えている三毛猫が見えたので走って行っておばあさんに体当たりをして、抱えているものをもぎ取りました。

 変な叫び声をあげたけれど倒れたままのおばあさんは追いかけてくる様子がなくて、掴んだものは冷たくて変なヌメヌメした手触りがしたけれど私は振り向かないで遠回りをして家に帰りました。

 

 猫は、手足の先が切れ味の悪い刃物で切ったみたいにぐちゃぐちゃにされていて、マズルも同じようにぐちゃぐちゃにされていました。

 傷口からは白い虫がうぞうぞ出てきて最悪な気持ちになりました。


 可愛い猫が酷い姿になったことと、服がぐちゃぐちゃになったことが許せなくて、悲しくて、私は家の裏庭で泣いてから、服を捨てて着替えました。

 まだ学校は授業中の時間です。

 あいつらのせいで、私の猫が殺された。あいつらが殺したのかもしれない。

 そう思ったら、いてもたってもいられなくて私は猫の死体をビニール袋に詰めてから学校へ向かっていました。

 私に意地悪を言ってきた林さんの下駄箱へ猫の死体をビニールから出して放り投げました。

 赤黒い半液状の臭い肉と汁がべちゃっと音を立てて、何匹かの白い虫がすのこに落ちたのを覚えています。


 少しだけすっきりした私は、走って家に帰り、お線香をあげてからベッドに入りました。

 祖母は畑仕事でいなかったので私が出かけたことなんて知らないし、私は風邪で寝込んでいて家から出ていないと言い張るつもりだったんです。

 林さんが嫌な思いをして、もう私に意地悪をしなければいい。そう思っていました。


 何日か学校を休んでいたら、林さんの席にお花が飾ってありました。

 彼女は死んだそうです。

 それから、近所では赤ちゃんがよくいなくなるようになりました。


 大人たちは「こもりさまのたたりでは?」というばかりで警察に連絡はしていないみたいです。

 あれから、毎日部屋をあのおばあさんが覗いている気がします。祖母にも母にも怒られるのが怖くて言えません。

 私が悪いのでしょうか?

 怖い話を送るとどうすればいいのか教えてくれると描いてあったのでこの手紙を送ります。


 I城県出身 マウンテンキャット(14)

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