第五十話〈中華料理〉

八十枉津学園へと外出して。

電車を乗って街へと繰り出していく。

そして到着したのは中華料理店だった。


「あ?んだよ此処」

「黒龍……ヘイロンか?」


「うわぁ凄い」

「博識ぃ~先輩」

「ヘイロンって読めるんですねぇ~多彩~」


猫撫で声で戊恋悔は八峡義弥を雑に褒めちぎる。

流石の八峡義弥でもその褒め方には不快に感じたらしい。


「……俺を馬鹿にしてんのかお前」


「いえいえ別に」

「ただ持ち上げたらお金を落としてくれますから」


正直な事を言う戊恋悔。

戊恋悔は何かと金金と言うが、どうやら金銭面が乏しいらしい。


「あのなぁ」

「キャバ嬢でもマシな相槌打つぞ」


「え……先輩」

「そういう店で……」


何故かショックを受ける永犬丸士織。

八峡義弥はそういう男だとは理解しているのだろうが。

実体験を口にされると傷ついてしまう様子だった。


「………いえ、流石です先輩」

「まだ未成年である筈なのにそう言ったお店へと入る事が出来てあわよくばお酒を飲みながら女性との会話を悠然とする様を思い描くだけで大人の余裕さを感じてしまいます」


「お?どうしたワン子?」


暴走気味に言う永犬丸士織。

取り敢えず、と戊恋悔が八峡義弥の腕を掴むと。


「はいはい、いいから入って下さいよ先輩」


「おいッ腕絡めんなッ」


「あ、ちょっお、あの、待って下さい」


そうして、中華料理店〈黒龍〉へと入っていくと。

其処は油の匂いが充満していた。

厨房から溢れる熱気から、焦がした香辛料の匂いが溢れ出す。


「店長っ!二名連れて来ましたっ!」

「なので~例の件、忘れないで下さいよ~」


そう言いながら厨房に入っていく戊恋悔。

八峡義弥と永犬丸士織はその場に立ち尽くしていた。

数十秒程で、厨房の奥から戊恋悔が出て来る。

今度はチャイナ服ではなく、黒色の調理服に着替えていた。

髪の毛を一房に纏めながら、薄桜色の唇にはヘアゴムを咥えている。


「ふぁ、ん……あぁ、先輩」

「はい、こちらの席にどうぞ~」


言いながら水とメニュー表を持ってテーブル席に案内する。

八峡義弥と永犬丸士織は言われるままにテーブル席に就くと。


「なあ、なんだよこれ」


「あれ?言ってませんでしたぁ~?」

「私、ここでバイトしてるんですよ」

「学校の生徒連れて来たら臨時収入で千円貰えるんです」


指を二本立てて水の入ったコップを八峡義弥と永犬丸士織の前に置いた。


「えっと、先輩」

「恋悔ちゃん」

「お金に困ってるらしくて」

「だから、バイトしてる所にお客さん紹介したら」

「お金が貰えるから是非来て欲しいって言われたんです」


「そんな金に困ってんのかよ」

「祓ヰ師の仕事してりゃ」

「普通に金が入って来るのに」


「あー、八峡先輩」

「わたしの家、陰陽師に目を付けられてるんです」

「基本的に祓ヰ師が月に貰えるお金」

「わたし、貰えないんですよ」

「だから……仕事をしても収入は無いので」

「こうしてバイトをしてるんです」


そう戊恋悔は言った。

彼女がお金に困っているのはどうやらそう言う事らしい。

陰陽師はこの世界では重要な存在だ。

当然ながらその地位も高く、権力も持ち合わせている。

戊家は外道の祓ヰ師とされており。

その為に陰陽師から目を付けられていた。

金銭面に関して、咒界からの援助は無いのだ。

だから彼女はこうして、バイトをして稼いでいるのだと言う。


「色々と大変だな」

「戊っさん」


「人をおっさんみたいなニュアンスで呼ばないで下さい」

「はっ倒しますよ?」


笑顔でそう言った。

しかし眉はピクピクと動いている。


「ま、そういうワケなので」

「もしも後輩に奢りたいな~って思ったら」

「第一候補者にわたしを思い出して下さいねっ」


そう言ってウインクをする戊恋悔。

今年の入学生は色々と癖が強いと、そう八峡義弥は思った。

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