第四十九話〈新入後輩〉
校門前、八峡義弥は警備員と話していた。
「外に出るにはこれを」
そう言って渡されたのは竹刀袋だった。
八峡義弥の腰に携えてある封魔刀を仕舞えと言う事らしい。
八十枉津学園は祓ヰ師の住処だが。
其処を出れば一般人がうじゃうじゃと言う世界だ。
腰に刀を携えていれば、人の注目を得るだろうし。
何よりも、警察を呼ばれる可能性がある。
警察の一部は、祓ヰ師の存在を認知しているが。
なるべく、面倒毎は避けて欲しいとの事だ。
「なーんか嫌なんすよね、コレ」
「ただでさえ刀を引き抜くのに間があるってのに」
「竹刀袋に入れて担いでる時に」
「敵さんが登場したら」
「わざわざ肩から降ろして、袋から刀を出して」
「そこで初めて刀を引き抜く」
「そのモタモタした時間で死ぬかも知れないじゃん」
「そう思わないすか?警備員さんよォ」
「死ぬ時は案外さっぱり死ぬよ」
「逆に死なない時はモタモタしても死なないモンさ」
「けど、竹刀袋が嫌だと言うのも分かるよ」
だから、と警備員は警備室へと戻る。
そして室内から取り出したのは黒い筒だった。
野球部が使う様なバットケースだった。
「はいコレ」
「いや同じじゃねぇすか」
「袋の口を締めるのがヒモかジッパーぐらいじゃないすか」
「オシャレなラインが描かれてるのに?」
バットケースには赤色の線が刻まれていた。
「オシャレでもねぇし」
「オシャレじゃないからゴネてんじゃねぇんですよ」
其処まで話した所で、ゆったりと歩く永犬丸士織の姿が見えた。
「よォ、ワン子」
「………と、誰だ?」
永犬丸士織の隣に居るのは、黒いチャイナ服を着込んだ女性だった。
スカートの切れ込みから真っ白な太腿が、歩く度に見えている。
細長い髪を二つ結びにした幼い表情ながらも鋭い目付きは高飛車な性格を思わせる。
「あ、先輩」
「今日、学園で友達になりました」
永犬丸士織はそう言ってチャイナ服の女の方に顔を向ける。
女は八峡義弥の顔を見ると、両手で頬を打ち付けて顔を赤らめた。
「うわぁ!お金持ってそ~!」
「いきなり失礼だなこの女」
「なんだよお前」
そう突っ込みを入れながら、彼女の名前を伺う八峡義弥。
「あぁ、失礼しました」
「こんにちは先輩」
「私、陰陽五行大系・陰陽師直属の祓ヰ師」
「土を司る家系から外道として扱われ」
「その結果黒歴史扱いとされて五行大系から外された」
「
「あ?なに?」
「ボケ?」
「ボケじゃないです戊家です。はっ倒しますよ?」
にこやかな笑みを浮かべて先輩に暴言を吐く戊。
それを見かねて永犬丸士織がフォローに入る。
「先輩」
「恋悔ちゃんは」
「陰陽五行大系と言う。陰陽師が直々に伝承させた」
「五つの家系の一角の血筋を持つ子なんです」
「その、非道故に陰陽五行大系を名乗る事を許されず」
「戊と言う不名誉な苗字を与えられたんですけど」
「話してて、凄く、いい子なんですよ?」
「あ?あぁ」
「いや、それはいいけどよ」
「何しに来たんだよ?」
そう八峡義弥が戊恋悔を見て言った。
それを見た戊恋悔は待ってましたと言わんばかりに。
「先輩、お食事処、探しているんですよね?」
「わたし、良いお店、知ってるんですけど?」
そう、戊恋悔は、八峡義弥に詰め寄った。
嗅いだ事の無い甘い爽やかな匂いが鼻を突いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます