第四十八話〈八峡新術〉

入学式。

命苫学園長の軽い挨拶を終えた後。

永犬丸士織を含める第94期生はそのまま教室へと向かう事になる。

一旦お別れとなった八峡義弥と永犬丸士織。

終わったら何処か食べに行こうと話を付けていた。


「さて」

「俺はどうするかね」


腰元に携えるそれを見詰める。

遠賀秀翼が離脱する際に。

死闘した末に手に入れた忘れ形見に触れる。


「そうか」

「もう半年過ぎてんのか」


そう八峡義弥は呟いて遠賀秀翼を思い出す。


『お前が見せた夢だ』

『俺は進むぞ』


確か、遠賀秀翼はそう言った。

八峡義弥は、遠賀秀翼と出会った時。

何度か遊んで馬鹿をして。

そして遠賀秀翼の夢を聞き。


『簡単だろ?そんな夢は』

『一日ありゃ叶うだろ』

『あと金がありゃ何とかなる』


そう言って見せた。

それが、遠賀秀翼を外化師に導いてしまった。

それに対して後悔は無かった。

何時か、遠賀秀翼と戦う事になったとしても。


(外化師になるってのに)

(笑ってやがったからな)

(あいつは俺に夢を見せたっつうが)

(その夢を叶えようとしたのはお前自身だ)

(俺は関係ねぇよ)


二人は馬鹿みたいに笑いながら。

戦い、殺し合う事が出来るのだろう。

あの頃、遠賀秀翼が離脱する時。

八峡義弥と遠賀秀翼が笑いながら殴り合っていた様に。


(あいつは居なくなったが)

(まあ、そのお陰か)

(戦利品としてコレを貰ったしな)


遠賀秀翼が持っていた奥の手とも呼べる武器。

それは士柄武物でも宝物ィコロでも無い。

旧き時代、天魔がこの地に下っていた際。

天魔を討伐する為に作られた剣客組が存在した。


それらは特殊な日本刀を扱い。

天魔を刀身に封じ込める事で刃自体に特殊な力を宿らせた。

その刀の名前は封魔刀。

そして八峡義弥が担うその封魔刀は。

封魔抜刀隊が大日本陸軍に吸収され。

特殊兵器開発部にて製造させた絡繰機巧と天魔の融合物。

〈九四式封魔刀零號〉。

未だ試作段階であったそれは、第二次世界大戦が終了した時点で開発中止とされ。

九四式封魔刀を扱う隊士は僅か四十四名しか居なかった。

その幻の一品を、遠賀秀翼から、八峡義弥へと引き継がれたのだ。


(これのお陰で)

(俺も一応は実力が上がったしよ)

(逆に万々歳だ)

(遠賀が居なくなって)


そう八峡義弥は心の中で思う。

だが、そうは思っても、あの頃の懐かしき日々は消えない。

遠賀秀翼と馬鹿をした記憶が、消える事は無い。

一人で揺蕩って、時間を潰す。


授業が終わるチャイムを聞いて。

八峡義弥は校舎へと向かい出す。

そして、永犬丸士織を迎えに行くのだった。

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