第四十七話〈道中会話〉


永犬丸統志郎は二人の仲を邪魔しない様にそっとその場を離れた。

グラウンドに居る辺留馨は後始末をするからと残ってくれた。

八峡義弥と永犬丸士織は、二人、学園の体育館へと向かう。


「そういや、今日入学式か」

「さっき知ったわ」

「まぁ、事前に知ってても」

「訓練尽くしだったし」

「多分忘れてたけどよ」


そう、八峡義弥は言う。

八十枉津学園の入学式は簡素だ。

体育館で命苫学園長の話を聞いて教室に行き。

教室にて生徒同士、軽く自己紹介をして終える。

それで今日一日のやる事は終わりとなっている。


「しかし」

「大きくなったな、ワン子」


八峡義弥は頭の天辺を掌で構えて彼女の頭へと伸ばしていく。

一年前とは違い、少しだけ身長が伸びているらしい。


「はい、先輩のご趣味に合うと良いのですが」


永犬丸士織は胸に手を当てて言った。

八峡義弥のお眼鏡に適うかどうか聞いたらしい。

しかし八峡義弥ははぐらす様に彼女の質問とは少しズレた答えを口にする。


「あー、そうだな」

「なんか大人っぽくなったな」

「前に会った時は小さく感じたが」

「今はそうでもねぇな」

「あと、髪ん色」

「灰色から黒に変わってんな」


自らの髪の毛を指差した。

一年前は灰色の髪だったが。今では黒髪に戻っている。

まだ未熟だった彼女は、禍憑の制御も出来なかった。


「あの時は禍憑が上手く制御出来なかったので」

「今では安定してますから」

「髪の毛の色は、変わってないんです」


そう説明を入れる。

禍憑は神胤を生み出す為のエネルギーではあるが。

上手く制御出来なければ呪いに体を蝕まれて痛い目を見る。

分かり易い例を出すとすれば、髪の色や、瞳の色。

呪いが進行すれば、虚弱体質となったり、五感機能が低下する。

最悪、呪いの本領を発揮されて、精神を崩壊していく事がある。

呪いの効力は呪いの意志によって違って来る。

例えば、八峡義弥に眠る五十市依光の呪いは『誰かの為に生きる』事を強要させる。

そうすれば八峡義弥は無意識に人を助ける行動を取ったり。

酷い時には神経を切り刻む様な痛みを誘発させて、強制的に行動させるのだ。

彼女の犬の呪いは『犬の様な行動を行う』というもの。

一年前の彼女は呪いの暴発によって犬と同化し掛けた事もあったが。

今では、満月の日以外にはあまり呪いが出ている事は無かった。


「あ」

「先輩は前の方が良かったですか?」

「でしたらすぐにでも髪の色を変えますけど」


永犬丸士織は焦燥した。

出来る事ならば八峡義弥の趣味に合う様な姿で居たいと思っている。

八峡義弥を敬愛する彼女は、八峡義弥が気に入る姿を求めていた。


「なんでだよ」

「いいよ、その方が似合ってる」


お世辞では無い。

本心で、八峡義弥はそう言っていた。


「そ、ですか」

「嬉しいです、すごく」


その言葉を聞いた永犬丸士織は嬉しそうな表情を浮かべる。

もしも犬耳があればぴこぴこと動き出して、尻尾があれば左右に揺れていただろう。

そうこうしている内に、体育館へと着いた。

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