第五十一話〈炒飯司祭〉
「普通に美味いな」
八峡義弥は炒飯を口にしながらそう言った。
テーブルの上に並べられた数々の料理。
エビチリに唐揚げ、餃子や麻婆豆腐と言った品が置かれている。
戊恋悔が勝手に置いて行ったものだが。
(流石に料理のどれかはサービス的な奴だよな?)
まさか、注文を聞いておいて注文以外の料理を出してくる筈が無い。
しかし注文したものを確認する伝票が未だに渡されないのは何故だろうか。
「ふー……ふー……」
永犬丸士織は麻婆豆腐をレンゲで掬って熱を覚ます様に息を吹きかける。
「はむ」
「はぅ……ん、ふっ」
「はぁ……先輩、この麻婆豆腐、美味しいですね」
「ん?あぁ」
「何かボッタクリ感あるけどよ」
「味は確かだわ、此処」
そう言いながら八峡義弥はラーメンを啜る。
八峡義弥が頼んだラーメン餃子定食は中々ボリュームがあった。
と言うか炒飯。これが曲者であり、ラーメンの器より大きく盛られている。
(大食い大会じゃねぇんだぞ)
半分程食って、ようやく胃袋が悲鳴を上げ出した。
(こりゃ無理かもなぁ)
しかし、残したら残したらでお残し料を取られると八峡義弥は思ってしまう。
無理に食べて気分が悪くなるのも、一応は作ってくれた人に悪い。
そう考えた末に、八峡義弥はレンゲで炒飯を掬い取ると。
「……」
「ほれ、ワン子」
「あーん」
その炒飯をワン子に向けた。
スープを飲もうとしていたワン子はその手を止めて。
八峡義弥の持つレンゲの方をじっと見ている。
「………」
「あぁ、成程、先輩」
「私と先輩の中を深める為に食べさせ合いをするんですねすいません先輩気が付きませんでしたとても良い提案だと思います先輩が炒飯を差し出していると言う事はまずは先輩が先攻で後攻が私と言う事ですねどうしましょうか先輩なにかお好きなものはありますか無ければ先程私が食べたおすすめの麻婆豆腐など如何でしょうか?」
「あーん」
「はい、いただきます。あーん……」
八峡義弥のレンゲが彼女に向けられる。
永犬丸士織は口を開いてそのレンゲを出迎えると。
パクリ、と、口を閉ざして永犬丸士織はレンゲ毎炒飯を食べる。
「美味いか?」
すくり、とレンゲを引くと、彼女の口から炒飯だけが残される。
モゴモゴと永犬丸士織は口を動かしていく。
八峡義弥の視線が気になるのか、唇を手で覆い隠した。
喉が鳴ると同時に彼女が咀嚼したものが胃袋へと流れていく。
「ん―――く」
「……はい、とても美味しいです」
「では先輩、此方からもごッ」
「ほら、炒飯」
レンゲで既に炒飯を掬っていた八峡義弥はそれを永犬丸士織に向けた。
永犬丸士織はそれを避ける事無く、口の中に炒飯を詰め込んでいく。
寡黙になりながら、ただ八峡義弥が与える炒飯を食べる様は雛鳥の様だった。
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