第四十四話〈二年生編〉

そして、一年が経過した。

あれからすぐに、永犬丸統志郎が八峡義弥の隣に引っ越して来た。

10月に発生する天輪冠襲撃を経験し。

1月に遠賀秀翼が外化師として祓ヰ師から脱退し。

そうして3月末期には、贄波阿羅教師から「つまらん」認定を受けた。

4月頃。八峡義弥は様々な経験をして、今、二年生となった。

そして2006年には、第94期生が新入する。

その第94期生には、無論として、永犬丸士織も入っていた。


(うん、大丈夫)


姿見に映る自分の姿を確認する。

前髪を指で梳いて髪型を整える。


セーラー服だった彼女は、学園が用意したブレザー服に変わっている。

春とは言え、まだ肌寒いのか、その上に黒のカーディガンを羽織っていた。


「行ってきます」


永犬丸士織はそう言って実家から飛び出した。

この一年、彼女は大きく成長した。

あの頃の様に、禍憑に犯されていた体はもう何処にも無い。

禍憑を抑制する技術を身に付けた。

生気の宿らぬ瞳も、灰色だった髪も、今では普通に戻っている。


更には、何も出来なかった彼女は、祓ヰ師としての力、式神を調伏した。

順調に、永犬丸家の次期当主としての力を蓄えている。


(早く、学校に……)


永犬丸士織は楽しみにしていた。

八十枉津学園への入学を、そしてそれ以上に。

彼女が尊敬し、敬愛する、八峡義弥との出会いを。

あの頃とは違って、成長したのだと、見せる為に。


(一年、もう、一年も)

(会えなかった期間)

(先輩は、私の事)

(覚えてくれてるのでしょうか?)


ふと、そんな心配が過る。

八峡義弥という男は軽薄だ。

彼女と言う存在を案外忘れているのかもしれない。

それならばそれでもよい。

忘れたと言う事は初対面であると言う事。

最初からまた、自己紹介を始めれば良い。


「………あ、と」


バスから降りて歩き出す。

永犬丸士織は五分ほど歩いて、八十枉津学園に到着した。


「あ、兄さん」


そして、学園前に立つ、全裸の兄を見て永犬丸士織は笑みを浮かべる。


「やあ」

「我が妹」


爽やかな笑みを浮かべる全裸丸。

永犬丸士織に近づこうと校門外から出ようとして。


「敷地から出たら」

「もう公然わいせつだから」


校門前に居た警備員に止められた。


「あ、そうか、そうだね」

「うっかりとしていたよ」

「どうも、ありがとう」


警備員にも爽やかな笑みを浮かべた。

そして永犬丸士織が事前に配布された学生証を警備員に見せて中に入る。


「兄さん、服は?」


「うーん」

「寝て、起きて」

「我が妹を迎えに行く為に」

「シャワーを浴びて……」

「迎えに行ったから……」


「最初から着てなかったんだ」


「うん、どうやらそうみたいだ」


爽やかに笑みを浮かべる。……いや爽やかにも限度がある。

それでも久しぶりの兄との出会い。

永犬丸士織は嬉しく思いながら共に歩き出した。




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