ヤンデレに愛されて仕方が無い第六十四話


    「……え、あの、それって」


    


永犬丸士織は狼狽した。


いきなり、調殿潔がそう素っ頓狂な事を言った為だった。


    


    「うん。私も可笑しいなって思ってたんだ」

    「けどね、どうも可笑しい事があったから」


    


調殿が頼んだコーヒーが運ばれる。


彼女はそれを受け取るとカップを持ってブラックのまま飲んだ。


    


    「……うん、おいしい」

    「でね、その可笑しな事って、私が八峡くんに対する好感度なんだ」


     


     「え、先輩……ですか?」


     


     「私はそれなりに彼の事を評価してるし」

     「異性として見れば可愛いところもある」

    「だから好感度は7くらいなんだけど」


     


 調殿が掌でスーッと横に動かす。


 どうやらそれは好感度の折れ線グラフらしく、ほぼ一直線に伸びていた。


     


     「けど、ある日を境に私の好感度は8くらいまで上がったんだ」

     「可笑しいよね、その日になるまで、私は彼に想いを寄せていた訳じゃないし」

     「元から私のものにしたい、そう思う程の好感度でも無かったのに」


     


 調殿はそう言うが、その表情は平穏としていた。


自分自身を客観的に見ているらしい。


     


     「気になったら調べるのが私の癖だから」

     「八峡くんを調べたんだ」

     「私の好感度が上がった日」

     「その日は丁度、八峡くんが呪いを受けた日だった」


     


     「呪い………ですか」


     


 八峡義弥は神胤を放出出来ない呪いを受けていると聞いている。


だが、それがもっと別の呪いであり、その影響を受けているとすれば。


     


     「白純神社の巫女さんにお願いして見て貰ったから、まず間違い無いと思うよ」

     「まあ、先生たちは学園の機材で神胤が使えなくなる呪いと判断したんだろうけど」


     


 白純神社は多くの厭穢や不従万神を封印する家系。


 その白純神社を経営する霊山家の一人娘には、全てを情報として認識する眼を持つ少女が居た。


 調殿は知り合いの伝手で、それを調べて貰ったらしい。


     


     「それで……私に、何故、その様な話を?」

    「うん。これは注意喚起って奴だよ」


     


     「……それは、先輩に近づくな、という意味ですか?」


     


     「ううん。別に近づいても良いけど、命が危ないって話」

     「私の見立てだと、もう何回もループしてると思うから」


     


     「………あの、それ、なにか関係が?」


     


     「ある一定の時間が過ぎると、また八峡くんが呪いを受けた日に戻る」

    「けどね、一応は、そのループ前の感情を引き継ぐんだよ」


     


     「引き継ぐ?」


     


     「八峡義弥に対する愛情だけが、引き継いでしまう」

     「八峡くんを私のものにしたい、そう思う程に愛が積み重なってるんだよ」


     


     「愛を超えた、狭愛に近い程にね」

     「だから、八峡くん、もしかしたら刺されてるかもね」


     


はははと声だけ笑う調殿潔。


 笑いごとじゃないと立ち上がる永犬丸士織。


     


     「何処に行くのかな?」


     


     「先輩の所です、先輩の命が危ないですっ!」


     


 そう言って店から出ていく永犬丸。


 調殿はコーヒーを飲みながら時計を見る。


     


    (今回の私はダメだったから)

     (次のループする私に頑張って貰おうかな)

     (八峡くんは好きだけど、今は近づかない方が良いね)

     (それよりも、私には大事な事があるから)


     


 そうして、調殿は運ばれたチョコレートケーキ二つが机の上に並ばれる。


     


     「ループするから、体重を気にしなくて良いから良いよね」


     


 そう言って、調殿は一人、ケーキを食べた。


永犬丸の分だと思っていたケーキは、調殿が初めから二人前分喰う算段だったのだ。


     

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