ヤンデレに愛されて仕方が無い第六十三話
そして、舞台は学園を離れたカフェから始まる。
永犬丸士織は、帰る途中にある女性と出会っていた。
女性用のビジネススーツを着用。
腰元まで伸びる髪は丁寧に結われた三つ編み。
食事でも外す事の無い革手袋。
美麗な姿である筈なのに、何処か不気味さが感じられる。
「ここのケーキ、美味しいんだ」
そう言ってテラスに座るのは、永犬丸士織と調殿だった。
「は、はい」
永犬丸士織は緊張しながらも頷く。
調殿潔。
祓ヰ師としての能力は無いが、その代わりに厭穢を武器として扱う穢造物遣いだ。
厭穢は祓われる寸前、ごく稀に発散からの消滅では無く凝結による自己封印を行う。
自己封印を行った厭穢は全ての権限を放棄する事で存在する事が許される。
厭穢はどの様な武器や術式であろうとも破壊する事は出来ない(減滅術式を除く)。
また厭穢としての役割を放棄する所か、逆に人間に対して有効に働く疑似的な契りを世界に結んでいる為に、人間が扱えば強力な武器として使役する事も出来る。
厭穢の凝結した物質を、祓ヰ師内では穢造物と呼ばれていた。
しかし、穢造物に心を許してしまえば心の隙間に這入る様に精神を乗っ取られる可能性もある。
故に、祓ヰ師として歴が浅いものが触れてはならず、また祓ヰ師として未熟なものが使役するのは禁じられている。
席に座る彼女たちの前に、メニューと水が注がれたコップが置かれる。
調殿はメニューを軽く見てから、店員に注文を行った。
「コーヒーとチョコレートケーキ二つお願いします」
(あ、私の分も、注文したんですね)
永犬丸は少し残念そうに自分のメニューを閉じた。
パフェとかレモンティーとか頼みたかったが、もう注文した以上、キャンセルは出来ない。
「さて……うーん、どうしよっか」
調殿はメニューのケーキを選ぶ時よりも悩んでいる。
永犬丸士織に、何処まで喋るべきか、考えている様子だった。
「………あの、言い難い事でしたら」
「別に無理をしなくても、宜しいですよ?」
永犬丸はそう言った。
このまま自宅へ戻って修練を積みたかった。
自己の弱さを恥じ、八峡と共に行けなかった自分の情けなさを悔やんでいる。
だからか、彼女のテンションは少し暗めだったのだが。
「まあ、半分で良いかな」
そう言って、調殿は口を開く。
その内容を聞いて、永犬丸は更にテンションが下がってしまう。
「永犬丸さん、此処で言うけどね」
「この世界は、どうやらループしているの」
「………はい?」
永犬丸士織は聞き返した。
ループ。
ビデオテープの一定の時間を切り抜いて繋ぎ合わせた様なもの、と言えば分かりやすいか。
早い話、時間が巻き戻っている状況だと、調殿は言ったのだ。
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