ヤンデレに愛されて仕方が無い第六十一話


ズルズルと葦北を引き摺る界守。


その姿はやはり八峡であった。


彼女を眠らせた八峡は、一応は保健室前へと運ぼうとしている。


    


    (彼女はもう目覚める事は無いでしょう)

    (少なくとも私が術式を使役しない限り)

    (永遠に、待ち人の来ない眠り姫として)


    


多少の誤差があったものの、順調に八峡に近づくものを抹消していく。


界守が保健室へと通じる廊下を歩いていた。


その時に保健室から一人の男が出て来た。


    


    「……どうした、あしきた」


     


 猿鳴だった。


 猿鳴は八峡に引きずられている葦北を見た。


     


     「これは、どういうことだ?」


    


 猿鳴が尋ねる。


 八峡は少し考えて首を振った。


     


     「分かんね。なんか寝ててよ」

     「結構危なそうだったから、保健室に連れて来た」


     


 そう八峡は言う。


 猿鳴は両手の指を八峡に向ける。


     


    「おまえがやったのか?」


     


 表情は変わらず、感情の無い声で。


 猿鳴は言うが、八峡は嘲る様に笑う。


     


     「冗談言うなよ!」

     「なあ、この八峡さんが女を傷つけると思うか?」


     


 八峡が言いそうな事を言う。


 だが猿鳴は感情の籠らない声で言う。


    


     「おまえがやかいのはずがないだろ」


     


 そして指先から弾丸が射出された。


 猿鳴形。全身の九割が絡繰で出来た少年。


 この世に生を受けた時から、彼の肉体は欠落していた。


     


 本来は死ぬ筈だった彼は、牛王尊の手によって作り直された。


 生きる絡繰人形、それが猿鳴形。


 その体は全身武器と言っても良い。


    


     「ッ!」


     


 八峡が防御態勢に入る。


 だが猿鳴の発砲は八峡の傍を通り過ぎただけだった。


     


     「いまのはいかくだ」

     「つぎはうつ、そのまえにしょうたいをあらわせ」


     


     (偽装が見破られた?)

    (口調はともかく、姿は完璧の筈ですが)


     


     「おいおいサルちゃんよ」

     「マジで勘弁してくれよ、俺は本物の八峡だぜ?」


     


 そう界守は言う。


 同時に象形術式を発動させた。


     


     「おまえがなんといおうが」

     「おれのめはごまかせない」


    


 そう猿鳴は言い放つ。


 唯一、猿鳴の肉体と呼べる部位である片目。


     


 その目は特別な瞳であり、魂を見分ける。


 如何に外見が同じであろうとも。


 その魂を真似る事は出来ない。


     


     「クソッ!」


     


そう言い放ち八峡はその場から離れる。


     


     「にがすとおもうか?」


     


 猿鳴が八峡を追いかける。


     


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