ヤンデレに愛されて仕方が無い第五十八話
〈妖〉。
人がまだ未知の現象を説明出来なかった時。
それに理由を付ける為に代用されたのが仮想生体〈妖〉である。
本来は人間の噂でしかなかったそのまやかしは、人から人へと伝染する様に広まっていき、あたかも存在する様に扱われる。
そうすると世界はその存在しないものを観測し始めて、存在しないものを実在させてしまった。
それが〈妖〉であり、彼らの存在は人間に信用されればされる程に実体化する。
「要は現象の擬人化って奴か」
八峡義弥は東院一の内容を掻い摘んで理解した。
しかし八峡はその妖の見た目を見て何故か現代風だなと思った。
妖と言えば、何かしら古臭さを感じるものなのだが、其処に立つ妖は何処か目新しさ、というものが感じられる。
「しかし物珍しいだけだ」
「所詮は妖であるし、殆どの有名な伝承の妖は封印か調伏されているだろう」
「なんで分かるんだよ」
「対妖機関も知らんのか貴様」
対妖機関。
妖を専門にした組織である。
何かを専門にした組織は対妖機関だけでは無いが、妖を専門にする組織はこれ一つだけだ。
現在の対妖機関は対妖機関広島支部と対妖機関京都支部のみ。
その対妖機関には、有名な妖が封印されていると聞いている。
「大方、奴らは対妖機関に殲滅対象とされた名の低いものらだ」
「なあ、なんで分かるんだよ」
「現代被れな恰好をしているのも、恐らく生まれ変わったのだろうな」
「対妖機関ってなんだよ、俺なにも知らねぇんだけど」
「妖は昔と違い噂によって仮想生体が誕生する事は無い」
「新しい単語来たよオイ、無知に厳しいだろ、なあ!」
「故にその個体も数が限られている訳だが……」
「なんで無視すんだよ、教えろよ、俺との関係は嘘なのかよォ!」
「うるっさい!きさまッ!うるさいッ!その息の根を止めてやるぞッ!!」
そんな漫才をしている最中。
東院が一瞬の警戒を緩めると、〈妖〉が揺らめいた。
長身痩躯の男が自らの能力〈
現象の理由を付ける為に枠付けされた妖は、その理由こそが存在の理由となる。
その現象を引き起こすのも彼らが存在しているから、と言う理由で納得される。
その男は、ただ手と足が長いだけの伝承で語り継がれていた。
ただ手と足の長いだけの妖。
二人一組の妖で手が長い妖と足の長い妖。
鬼であったり、神であったり、仙人と言う噂もあるが、結局はそれだけの妖。
それが〈手長足長〉と呼ばれる妖の真名。
ただそれだけ、それだけの妖である筈なのに。
その男が一歩、踏み込むだけで自在に移動する事が出来る。
本来はその様な妖に、特別な力など無い。
だからこそ、名の低い妖は〈戯〉を生み出した。
仮想生体が自己暗示によって独自の物語を強制曲解させる行為。
綿程の軽い妖であれば、周囲の重力を奪う能力だと誤魔化し。
年がら咳をするだけの妖であれば、命を奪う程の病を患わせる能力だと偽り。
皿を数えるだけの妖であれば、最後の枚数を数え終えると同時にそれを聞いた者の魂を奪う能力だと騙す。
本来は存在しない力、それを曲解させる事で現象に異変を齎す。
それが〈
その手長足長は自らを距離を自在に操る妖だと詐称する。
その足は踏み出せばどんな場所だろうと一歩で行ける足だと言い。
その手は振ればどんな位置だろうと絶対に触れるし当てる事の出来る手だと偽った。
本来ならば罷り通らない事象であろうと。
妖はそん児戯が罷り通る力を持つ。
その存在は、名が無く、詳細が大雑把なもの程、戯が浸透し易い。
「我が名、手長足長」
「我が手を振れば命中し、我が足が跨げば何処へも行く」
「これが我が現象、戯也」
だが戯が干渉出来るのは意識無い物質のみ。
戯は自他が認識して居なければ扱う事は出来ない。
故に妖は自らの戯を他者に説明して認識を共有しなければならない。
それこそ、子供が遊ぶ為に必要不可欠なルールと言っても良い。
そして、戯が説明された今、手長足長は、八峡義弥及び、東院一に戯を使役した攻撃が可能となった。
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