ヤンデレに愛されて仕方が無い第五十五話

 葦北静月。

 片手の負傷により絡繰機巧〈翁〉の起動は不可。

 必然的に鉄糸術に移行。八峡義弥と接戦。


 八峡義弥、もとい、界守綴。

 形象術式〈化〉によって見た目を八峡義弥にした界守綴。

 術式によって具現化された〈剣〉を扱い葦北静月と戦闘。


 幼少の頃から鉄糸の操作を訓練し続けた葦北。

 彼女の鉄糸は神胤によって開拓された洞孔が展開され、彼女の神胤を流す事で自在に操る事が可能。

 五指に繋がる鉄糸が周囲に張り巡らされる。

 蜘蛛の糸の如く極めて視認し難い鉄糸の巣が完成される。


      (接近すれば糸によって身を削られる)


  八峡義弥はすぐに〈剣〉を捨て指で空中に〈弓〉を描く。

  具現化される弓を掴むと更に追加で〈矢〉を書き、数秒で遠距離武器を手にする。

  弓を構えて弦を引き矢を弾く。

 標準をやや上に向けて放たれた矢は糸の合間を擦り抜けて丸い射線を築き葦北へと迸る。


      (やっぱり八峡じゃない)

      (八峡はそんな術式を使わない)

      (似せるのなら、もっとちゃんとしてよッ!)



  だが葦北が小指を動かす。

  それだけで矢は綺麗に切断された。

  彼女の意志に沿う様に、鉄糸が矢を縦に裂いたのだ。


     (遠距離は対策済み、成程、これは完璧な防御陣ですね)


      (私は攻撃出来ないけど、相手は手出し出来ない)

      (それまでに策を練らなきゃ……)


  八峡義弥は冷静に判断し、指を自身に向けて文字を描く。


      (指を動かした?)

      (武器も瞬時に現れたから空間系術式?)

      (それだと八峡そっくりになってる事が説明出来ない……)



      (しかし、それが弱点にもなります)

      (巣の中心に居る貴方は其処から動く事は出来ないこと)


      


  象形術式〈移〉。自分の位置を彼女の後ろへと移動させる。

  それは瞬間移動にも見えるだろう。

  一瞬で消えた八峡義弥を探す。


      「ッ、何処ッ!?」


     「こっちだ」


  その言葉を発すると同時に八峡が葦北の背中を押す。

  彼女はその手押しによろめいて、張り巡らされた鉄糸へと体を向かわせる。


     (貴方は貴方の力で斃される)

     (術師としてはこれ以上ない不名誉でしょう)


  だが、鉄糸は彼女を切り刻む事は無かった。

  それどころか鉄糸の硬質さなど無く、ゴムの様な柔軟性で葦北を保護している。


      「なッ!」


      「私の能力だよッ!」


  葦北の鉄糸操作以外にも神胤に振動性を付加して切れ味を上昇させる。

  更に鉄糸を操作して緩みと締りを行う事でゴムの様な働きをさせる事も出来る。


  彼女が鉄糸に触れると同時に緩ませ、彼女を押し出す様に鉄糸を締らせる。

  そうする事で彼女は反動を付けて八峡義弥に向けてタックルした。


      「うりゃっ!」


  掛け声と共に今度は八峡が鉄糸の網へと押し出された。

  葦北が神胤を起動。八峡が向かう鉄糸に振動を付加。

  八峡が鉄糸に切り刻まれる。


      


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