ヤンデレに愛されて仕方が無い第五十四話
界守綴は八峡と関りのある人間との関係を断ち切る事をしている。
彼女の話術は術式と併用すればどんな言葉でも信じさせる事が出来るし、例え八峡義弥と鉢合わせになれば術式で昏睡催眠記憶消去など行える。
本来ならば八峡義弥自身を操作して彼自身が彼女らの関係を終わらせれば良かったのだが、現在、八峡義弥の居場所は掴めては居ない。
それはそれで好都合であり、界守綴は八峡義弥に化けて邪魔な人間を処理する作業を行っている。
(次は………居ましたね)
界守綴は倉庫前に居る葦北静月に目を付けた。
片手を包帯で巻いている彼女は、先日九重花久遠との戦闘で負傷した様子だ。
それでも彼女は自分自身の絡繰機巧の調整を行っている。先日の戦闘で、彼女の〈翁〉も損傷があった為に。
そして界守綴は八峡義弥に化けて葦北静月の前に立つ。
軽薄な笑みを浮かべる八峡義弥に、葦北静月は振り向いて気が付いた。
「あ、八峡………?」
そしてすぐに八峡義弥に違和感を覚える。
葦北静月は首を傾げて八峡義弥の顔を見る。
「…………」
「んだよ、俺の顔に何か付いてんのか?」
八峡義弥の声でそう言った。その際に背中に〈信〉の文字を書き、言葉に信用性を持たせる。
そして八峡義弥として信じ込ませた後、葦北静月は八峡義弥として接する事にした。
「……あのさ、八峡」
「あ?んだよ」
葦北が八峡に質問する。
八峡はそれを聞く姿勢をとった。
「昨日、さ」
「先生に事情聴取、されたよね?」
「あぁ、されたな」
八峡は頷く。八峡義弥に化けた界守綴が事情を説明しに行ったのだ。
「八峡が帰ったあと……」
「先生に、また呼び出されてね」
「それで?」
葦北の口は重い。それ以上の言葉を出す事が出来ない様子だ。
それでも葦北は、真偽を確かめる為に、その口を開き声に出す。
「先生は……八峡がこう言ってたって」
「『九重花久遠は質の悪いストーカー』」
「……『葦北静月は、俺の彼女だと思い込んでる、気持ち悪い奴』って」
「あれ……嘘、だよね」
「ねえ、八峡、そう、だよね?」
葦北が曇らせる表情を八峡に見せながら言う。
界守はその表情を見て効いていると思いつつも、厄介そうな顔を浮かべて葦北に対応する。
「は?事実そうだろ」
「お前さ、考えて見ろよ」
「お前がやった事は、お前自身が知ってんだろ?」
八峡義弥が言いそうな言葉を選んで界守綴が言う。
葦北は狼狽した、心当たりがある様子だった。
「はぁ………いや、まあ俺も悪かったわ」
「俺がちぃっとばっか、優しくしたのが悪かったんだよな?」
「そうしたから、お前が勘違いしただけだもんなぁ?」
「しょうがねぇよな。でもよォ、俺も人間だし、もう限界だから」
「だから、ここで正直に言っておくわ」
「お前さ、面倒くせぇんだよ」
そして、界守綴が言いたい事を言い切った後。
葦北静月は、絶望に渦巻く表情を浮かべながら、ボソボソと呟いていた。
(これで彼女も……)
そう界守綴が確信した直後。
葦北の指弦に鉄糸を通す。そして葦北はそれを巧みに操ると、八峡義弥に向けて放つ。
「ッ、おい、何すんだよ」
八峡義弥がその攻撃を回避して、葦北に怒鳴った。
それを見て、葦北静月は乾いた笑い声を響かせる。
「やっぱり」
「八峡じゃない」
「八峡だったら、今の、避けれないもん」
それはその男が八峡義弥であるのか確かめる為の攻撃だった。
「八峡はそんな事言わない」
「八峡はそんな傷つける真似はしない」
「だって八峡は、私を受け入れてくれたんだもん」
「貴方は八峡じゃない」
「八峡を、八峡義弥を騙らないで」
「その顔で、その声で」
「八峡の真似をしないで」
葦北静月の瞳には殺意が乗っていた。
界守綴はハズレ籤を引いた様な嫌悪に包まれる。
「おいおい、勘弁してくれよ」
そう言い、界守は術式で形成した剣を出す。
そうして、葦北静月は二日連続の戦いを挑む。
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