ヤンデレに愛されて仕方が無い第五十二話
「何か俺を求めてるらしい」
八峡は縁側で茶を啜る東院に言う。
東院は近くに置いた煎餅を齧りながら八峡に言った。
「貴様に価値はあるのか?」
と軽口をたたくが、八峡はその言葉を聞いて途端にキレ出した。
「お前それ俺の前で二度と言うんじゃねぇ」
東院はそんな八峡を一瞥して煎餅を齧る。
八峡も少し冷静になりながら先程の言葉を取り消す様に言う。
「……まあ、聞くに教祖様は慈悲深いお方らしくてよ」
「俺の呪いを解いてくれるんだと」
それがあの男に聞いた情報だった。
八峡義弥は呪いによって術式が使えない状態だ。
呪いが解ければ、祓ヰ師として復帰出来る。
「宗教団体〈ぱらいぞ〉」
「それが、俺を狙った連中の名前だ」
八峡はそう言った。
東院は訊いた事のある名前に頷く。
「そうか……この俺に舐めた態度をした事を詫びさせなければならんな」
煮え滾る怒り、手に握る煎餅を砕く。
それをもったいないと八峡は思いながらも、八峡は同じ思いをしていた。
「俺も今の生活が気に入ってるから」
「勝手に呪いを解いて貰っちゃ困るわ」
寛ぐ二人。
八峡は煎餅に手を伸ばす。
その手は東院の手によって叩かれた。
「俺のだ、触るな」
「ケチくせぇな」
東院と共に過ごす。
一時間ほどして、重い腰を上げて準備を行う。
宗教団体〈ぱらいぞ〉本部への殴り込みである。
八峡、東院の二人。
永犬丸士織は此処から先は危険だと家に帰す。
「んじゃ、行くか」
「足手纏いにはなるなよ」
「それはねぇよ」
「逃げ足だけは早いからな、俺」
「だから弱いんだ、貴様は」
「死なねぇよりかはマシだろ」
「生き恥を晒すな」
「生き残りと言えや」
その様な軽口を叩いて、二人は目的地へと向かっていった。
永犬丸士織は二人の姿を見て虚しい気持ちが沸き上がる。
(私も、先輩と共に行きたかったですが……)
(私は役に立てないのですね)
(居ても邪魔だと……そう言うのですね)
(……もし私が兄だったら)
(先輩は、私も連れて行ってくれたのでしょうか)
(……もっと、強ければ)
(私も、先輩の隣に居れるのに……)
(なんででしょうね、東院先輩に、少し、嫉妬してます)
(………取り敢えず、この事を、兄に伝えなければ)
(……学園に急ぎましょう)
永犬丸士織は寂しさを抱く。
そして家族である永犬丸統志郎の元へと急いだ。
東院屋敷から離れて、街に出る。
そしてタクシーを拾おうとした時。
「……あれは」
永犬丸士織は邂逅する事になる。
彼女と――――。
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