ヤンデレに愛されて仕方が無い第四十九話
明朝。
「ふんふんふーん」
祝子川夜々が呑気にそう鼻歌を歌いながら竹箒で掃いている。
最初に玄関を掃いて次に寮内の周りを掃く。
そして再び玄関を掃くのが彼女のセオリーだった。
玄関を掃いて寮内の周りを掃こうとした夜々は。
昨日は無かった筈の瓦礫の山を視認して驚く。
「よよっ!?」
それは八峡義弥と永犬丸統志郎の部屋の壁だった。
「こ、これは一体……」
瓦礫に近づく。グッスリと眠っていた祝子川夜々は昨夜の騒動に気が付いていない。
ガラッ、と瓦礫が動く。
瓦礫の中から全裸の男が現れた。
永犬丸統志郎だった。
「え、永犬丸しゃんっ!?」
驚きのあまり祝子川夜々が噛みながら言った。
竹箒を投げ捨てて永犬丸へと近寄っていく。
「……ん?」
「ああ。おはようございます」
永犬丸統志郎は爽やかな笑顔でそう言った。
その体は傷だらけで汚れている。
祝子川は瓦礫を掴んでは退かして永犬丸を掘り出していた。
「な、なにがあったんですっ!?」
「すいません。少し寝てました」
「こんな所で寝ないで下さいっ!」
永犬丸統志郎は困った様に笑う。
そして永犬丸統志郎は昨夜の出来事を思い出していた。
結果として言えば、善戦していたのは永犬丸の方だった。
能力を発揮する事で人間以上の身体能力を発揮する永犬丸に界守は防戦する事しか出来ない。
界守綴が象形術式を使役する際、必ず文字を書かなければならない。
永犬丸統志郎はその文字を書き切る前に距離を詰めて攻撃、最短で書き切れる文字での攻撃でも予測して回避する事が出来る。
最終的に界守綴に膝を突かせるまで善戦したのだが。
『これで勝負は付いた』
『潔く敗北を認めれば、ボクは追撃はしない事を約束する』
『そして、我が友を諦めてくれたまえ』
永犬丸が言う。
界守綴は荒い息を吐きながら顔を上げる。
そして永犬丸統志郎の顔を見て笑う。
『……首輪が欲しいのです』
唐突に。界守綴はそう言った。
永犬丸統志郎は界守の言葉に少し困惑する。
『私の首に、首輪を付けて……』
『鎖の引き綱で支配されたいのです』
『私を引っ張って下さる様な人が……』
『きみはなにをいっているんだ?』
『その為に、私は、生きている』
『貴方では、ダメだ』
界守綴が立ち上がる。
永犬丸統志郎が身構える。
文字を書き出す。永犬丸統志郎はそれを止める為に攻撃する。
しかし界守綴は攻撃を受けても文字を書く事をあきらめない。
『形象術式「
その文字は、存在する事の無い幽の字。
存在しない何かが、永犬丸統志郎を襲った。
そして、永犬丸統志郎は敗北したのだ。
(いやぁ…甘かった)
(まさかアレを出してくるとは)
(生きているだけでも不思議なくらいだ)
(……これからどうするか)
(とりあえず、我が妹と、我が友の場所へと、足を運ぶか)
永犬丸統志郎は立ち上がる。
髪を掻き揚げながら、「我が友らは、何処に居るのだろうか」と呟いた。
「永犬丸さんっ取り敢えず服を着てくださいッ!」
隣で祝子川夜々が叫んでいた。
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